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分子ハサミを幹細胞に使う
Nature Medicine 25, 6 doi: 10.1038/s41591-019-0467-6
CRISPR遺伝子編集技術と幹細胞治療は、2019年の医学で最も話題を集めそうな分野である。この2つを組み合わせて設計された最初の臨床応用例の1つの歴史は、1940年代後半の鎌状赤血球症(SCD)の研究にまでさかのぼる。SCDではまず、ヘモグロビン分子に異常が生じていることが明らかになり、「分子病」と呼ばれるようになった。この血液疾患について、発症機構の研究は速やかに進展したが、治癒に至る治療法はなかなか見つからなかった。化学療法に代わって輸血や骨髄移植が行われるようになっても、造血幹細胞移植はドナーが見つけにくい上に、高いリスクや重篤な副作用が問題となっている。しかし最近では、出生後に発現が低下する胎児ヘモグロビンを発現させる療法が注目を集めており、ヘモグロビン異常症患者の造血幹細胞でゲノム編集を行い、胎児ヘモグロビンの発現を抑制するBCL11Aなどの遺伝子をCRISPRのような遺伝子編集により破壊してから、編集済みの細胞を患者に自家移植する方法が試みられている。幹細胞とさまざまな遺伝子編集法を組み合わせるこのような方法は、複数の企業が、血液疾患だけでなく1型糖尿病、嚢胞性線維症やデュシェンヌ型筋ジストロフィーなどの治療への応用を試みている。しかし、ゲノム編集のオフターゲット効果のリスクなど、懸念される問題もまだ多い。