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腸チフス:ヒト感染モデルでの急性腸チフスに腸チフス毒素が果たす役割の研究
Nature Medicine 25, 7 doi: 10.1038/s41591-019-0505-4
腸チフス菌(Salmonella Typhi)は、宿主がヒトに限定されている病原体で、年間で約1090万人が罹患する腸チフスを引き起こす。腸チフス毒素は、疾患発症や慢性感染の樹立、宿主をヒトに限定することに中心的な役割を持つと考えられてきたが、ヒトの腸チフスに果たす役割の詳細は、完全には分かっていない。今回我々は、チフス菌ヒト感染モデルを用いた無作為化二重盲検試験を用いて、急性感染での腸チフス毒素の役割を調べた。40人の健常なボランティアを無作為に選んで(1:1)、104コロニー形成単位の野生型腸チフス菌あるいは腸チフス毒素欠損変異の生じた(TN)同系チフス菌を経口投与した。野生型とTN型のチフス菌を感染させた被験者の間で、腸チフス感染率(38℃以上の発熱の12時間以上持続やチフス菌血症)に有意な差は認められなかった(野生型が21人中15人(71%)なのに対して、TN型は19人中15人(79%);P = 0.58)。しかし、菌血症の期間は、TN型を投与された被験者で、野生型を投与された場合よりも有意に長かった〔野生型が30.3時間(3.6から49.4時間)に対して、TN型は47.6時間(28.9から97.0時間);P ≤ 0.001〕。それ以外の臨床症状は、野生型群とTN群の間で判別不能であった。これらのデータは、今回のヒト感染モデルという条件下では、感染や腸チフス初期症状の発症に、腸チフス毒素は不要であることを示唆している。重篤な病態や保菌定着に腸チフス毒素が果たす役割を評価するには、さらなる臨床データが必要である。