Editorial

RNA標的治療薬への期待は実現しつつある

Nature Medicine 25, 9 doi: 10.1038/s41591-019-0580-6

RNAを標的とする治療法、つまりアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)、アプタマー、siRNAやmiRNA、さらに最近では合成mRNAを薬剤として使って疾患関連遺伝子の発現を制御するという考え方は魅力的である。このような薬剤は、小分子やタンパク質の標的とはなりにくい物質に結合することができるため、対処しにくい疾患に対する全く新規な治療への道を開くと考えられるからだ。

 しかし、この考え方を臨床で実現するのは至難の業であった。ASOやsiRNAについては、臨床で使える薬剤の開発が数十年にわたって行われたが、成功には至らなかった。強力で免疫原性のない分子を作出するためには、全く新しい医薬品化学の手法を考案する必要があり、さらに薬剤の送達、つまり薬剤を適切な組織中の適切な細胞に送り込むという難問もこの分野の進展を阻んできた。しかし現在、開発が遅々として進まなかった長い年月の後にやっと、この分野は急速に勢いを増しつつある。2016年には、ASOの1つでスプライシング切り替えを行うヌシネルセンが、希少で致死性となることが多い神経系疾患である脊髄性筋萎縮症(SMA)の第1の治療薬として、FDAにより承認された。2018年にはRNAi薬のパチシランが、また別のまれで重篤な疾患である遺伝性ATTRアミロイドーシス(hATTR)の初めての治療薬として承認された。このような最近の成功例は、RNAを標的とする治療薬の臨床での有用性を立証したものであり、これまで有効な治療選択肢がなかった患者の命を救う薬剤の開発をさらに促進することとなった。

RNA治療薬自体の開発は、このように急速に進展している。しかし、長い目で見れば、安全かつ高い効率でもっと多くの組織を標的にできる革新的な送達技術の開発の方が、RNA標的治療薬の臨床的重要性の幅を広げるのには重要だと考えられる。ナノ粒子の使用、siRNAを特定の表面受容体を認識する抗体と結合させる方法などはすでに試みられている。エキソソームを合成ナノ粒子の代替品とする実験も膵臓がんのマウスモデルで成功している。しかし、研究が継続中のこれらの手法をうまく臨床に採り入れられるかどうかは、まだ明らかになっていない。ASOとsiRNAの成功は、我々がRNA標的治療の始まりに立ち会っていることを示している。この時点で必要なのは、このような薬剤をさらに広範囲にわたる組織に送達でき、臨床的に使用可能な送達手法の開発を集中的に行うことだろう。送達の問題が解決されれば、治療が困難とされてきた疾患の患者のための多数の画期的な治療が実現可能となるはずだ

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