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がん:低読み取り深度の腫瘍RNA塩基配列解読によるがんの予後予測
Nature Medicine 26, 2 doi: 10.1038/s41591-019-0729-3
崩壊した分子経路は、がんの疾患転帰と強く関連していることが多い。生物学的に有用な情報源となる転写経路は、従来使われてきた読み取り深度を最大で数百分の一にまで減らしたRNA塩基配列解読(RNA-seq)によっても明らかにできるが、臨床転帰を予測するための転写シグネチャー開発という難題に関しては、低深度の塩基配列解読データセットがどのような機能を発揮するのかは分かっていない。今回我々は、低深度の腫瘍RNA-seqを用いるがん予後診断の可能性を評価した。この手法によれば、ずっと多くの試料を費用効率よく評価できるようになり、それによってより詳細な生物学的知見や予後予測が得られると考えられる。がんゲノムアトラスの参加者数千人に対して有害転帰の相対的リスクを統計的にモデル化することにより、複数種のがんで転帰を予測するための十分な情報が、1試料当たり数十万リードのサブサンプリングされた腫瘍RNA-seqデータから得られることが実証された。予測モデルの解析から、転帰との関連が知られている経路のロバストな関与が明らかになった。今回の結果は、がんの転帰予測モデルは、試料数を急激に増加させながら低コストで開発できる可能性があることを示しており、従って、将来的には多様な変異やそれらの間の相互作用を組み込んだ、より実際的な予測モデルの開発も可能になるだろう。この戦略は、定量的モデル化や個別化腫瘍学での転帰予測のために治療と並行して腫瘍の複数領域に対して行う縦断的解析などにも使える可能性がある。