Editorial

研究者にとっての最優先事項は患者からの信頼の維持である

Nature Medicine 26, 3 doi: 10.1038/s41591-020-0813-8

医療データは貴重な情報の宝庫である。データの「二次利用」、つまり再利用は、臨床現場で患者の治療のために収集された情報が、医療記録保存以外の目的に使われることを意味しており、医学研究だけでなく、医療行政や製薬などのさまざまな分野に多くの利益をもたらすと期待されている。そのため、デジタル化により国際比較可能になった患者データは、現在、非常に価値の高い商品となっていて、ヘルスケア領域に強い関心を持っている商業パートナーと手を組んで、国が管理しているデータを再利用することで、医療経済分野への参入を考えている国も多い。

だが過去10年間で、個人の医療データの安全性に対する患者の信頼は、一連のメディアの調べによって大きく揺らぐことになった。医師のファイルから匿名化されたデータを集めて研究に使用できるようにする英国の国民保健サービス(NHS)の情報共有スキームが2016年に閉鎖されたのは、100万人以上の患者が自身の医療データが同意なしに営利企業に共有されることを懸念してシステムからオプトアウトしたことが原因である。また昨年、Google社は米国で2番目に大きいヘルスケアプロバイダーのAscensionとのパートナーシップを公表したが、これによって5000万人に上る患者の氏名や生年月日を含む健康情報が同意を得ることなく取得される可能性が明らかになり、一般の人々の怒りを買った。

医療サービスと社会サービスの連携した臨床現場で得られた複雑な情報の活用には、この他にもさまざまな問題がある。研究者は、規制組織が問題解決を先導するのをただ待っていてはいけない。医療データの共有が重要なのはどういうわけなのか、データのデジタル化への投資はヘルスケアにどのような形で利益をもたらすと予想されるのかなどについて、データを使う研究者は患者と率直に話し合う必要がある。研究に不可欠なデータへのアクセスを保持するためには、研究者が作る組織自体が、患者データの使い方についての意見交換、透明性、そして規制について、先頭に立って最も熱心に行動し、それによって信頼関係を維持すべきなのだ。

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