Editorial

ワクチン開発には強い後押しが必要だ

Nature Medicine 27, 12 doi: 10.1038/s41591-021-01633-x

12月1日は「世界エイズデー」である。今年のテーマは、「不公平を、エイズを、パンデミック(世界的大流行)を終わらせよう」というものだ。このテーマは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対しても使えるだろう。COVID-19とヒトHIV、それにエイズには、その影響が世界中の社会経済的に最も不利益な立場にある人々に偏っており、莫大な数の死亡者が出ているという共通点がある。しかし、COVID-19パンデミックでは、その始まりから2年の間に少なくとも6種類のワクチンがWHOによって緊急時使用のリストに載り、感染者と死亡者の数が抑えられるようになった。だが、HIVについては、流行開始から40年がたった今も、ワクチンは開発されていない。

HIVワクチン開発には、過去2年間にさらなる挫折がもたらされた。2020年1月には、臨床的に最も進歩したHIVワクチン候補と言われたHVTN 702の有効性試験が行われたが、中間解析でHIV感染を防御する証拠が得られなかったことで実験は中断され、このワクチン処方のさらなる開発は終了となった。また、2021年8月には、ヤンセン社(Janssen)によって開発され、Ad26ベクター(COVID-19ワクチンでも使用されている)とタンパク質によるブーストで構成されているワクチンの有効性が、プラセボに比べてさほど大きくないことが明らかになった。同じワクチンプラットフォームを使ったMosaico試験は現在も続けられているが、これがHIVワクチンについて現在行われている唯一の大規模研究である。

今年の世界エイズデーのテーマはHIVだけのためではなく、ワクチン開発が頓挫したり、研究資金が足りなかったりする感染症の全てに対して、行動を呼び掛けようというものだ。これらは、社会経済的に最も恵まれない集団のいくつかに不釣り合いに患者が多い疾患である。対策資金が最も不足している感染性疾患であることが確かな結核では、世界中で年間150万人が死亡しており、世界の人口のほぼ4分の1に当たる人数が感染している。またB群レンサ球菌は最も脆弱な乳幼児が感染し、年間で15万人が死亡している。COVID-19のパンデミックの特徴を要約してみれば、「感染症は無差別に感染していく」ということになるだろう。全ての人が使えるワクチンの開発を優先することは、ゼロ・サムゲームではないことを忘れてはいけない。

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