COVID-19を抑えるには、世界的な保険政策で各国内の状況に対処することが必要だ
Nature Medicine 27, 6 doi: 10.1038/s41591-021-01400-y
世界の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチン接種数は、現在までにすでに十億回を超えていると考えられる。イスラエル、英国や米国のような一部の国では、全人口のほぼ50%が少なくとも1回目の接種を受けていて、最近の数週間では感染数が低下し、集団接種の影響が感じられるようになりつつある。だが、世界の他の地域ではCOVID-19パンデミック(世界的大流行)が収まる気配はなく、4月後半の2週間の世界のCOVID-19感染者数はパンデミックの最初の6か月間の数字を超えており、これは主にブラジルとインドでの感染急増によるものとされている。これらの国々で感染率が高いことの原因の一部は、ワクチン接種率が低いことと、感染力が従来のものより強い、新しい重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)変異株の出現である。高所得国はインドに個人用防護具や酸素を送るなどの支援を行っているが、ブラジルとインドの悲惨な状況は、地域レベルの公衆衛生インフラストラクチャーの改善に国政のリーダーシップが重要であること、また長期にわたる世界各国からの支援が不可欠であることをはっきり示している。現状では、少なくとも1回の接種を受けた国民は、ブラジルでは17%程度、インドでは10%程度と見積もられている。これらの国の高い感染率とワクチン接種の遅れは、国内だけの問題にとどまらず、新規な変異株の出現を招くなど、パンデミックの収束に対する大きな障害となる。
ワクチン接種キャンペーンが、インドとブラジルだけでなく、他の低・中所得国(LMIC)においても直面している最大の問題は、ワクチン供給の不足である。購買力のある国々はすでに、自国民に複数回を超えて接種できるだけのワクチンを購入している。一部の国は、ストックしたワクチンの余剰分を不足している国に再配分することを約束しているが、ワクチンの供与は緊急を要する問題である。ワクチン特許権の一時的放棄が提案され、米国がこれを支持したことは予想外の歓迎すべき動きだったが、法律上の問題や反対は多く、世界的なワクチン供給状況をすぐに改善することにはつながりそうもない。ブラジルとインドを含むいくつかのLMICは、自国でワクチンを生産できるが、ファイザー社とモデルナ社のワクチンには従来型のワクチンよりずっと複雑な技術が必要とされる。
また、世界のヘルスコミュニティーは、将来避け難いと考えられている次のパンデミックについても考えなくてはいけない。新規ワクチンの製造施設と分配のための組織の確立だけでなく、低価格で容易に生産可能なLMIC用のワクチンの選択肢も重要となろう。このような分野での世界的協力は、強靱な公衆衛生システム構築への各国の投資と組み合わさって、現在のパンデミックへの対処と長期的な備えの両方に利益をもたらすはずだ。高所得国の迅速な参入なしでは、インドとブラジルで現在進行中の危機は、LMIC諸国でも繰り返される可能性が高い。それは全ての人々に及ぶパンデミックの影響を長引かせることになるだろう。