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くも膜嚢胞:マルチオミクス解析によって示された脳のくも膜嚢胞の病因への神経発生プログラムの関与
Nature Medicine 29, 3 doi: 10.1038/s41591-023-02238-2
脳のくも膜嚢胞(arachnoid cyst:AC)は、脳の発生に関わる病変のうちで最もよく見られるものだが、ほとんど解明が進んでいないタイプに属する。我々は、ACの病因解明を始めるに当たって、患者と両親のトリオからなる617組のエキソーム、ヒト脳およびマウス髄膜の15万2898個の細胞の単一細胞RNA塩基配列解読によるトランスクリプトーム、患者の医療記録の自然言語処理データの統合解析を行った。有害なde novoバリアント(DNV)は、健常者と比べるとAC患者に非常に多く見られることが分かった(P = 1.57 × 10−33)。7つの遺伝子にエキソーム規模でかなり大きなDNV集積が含まれていた。AC関連遺伝子は、クロマチン修飾因子を非常に多く含んでいて、神経や髄膜の発生に不可欠な妊娠中期転写ネットワークに集中していた。患者の表現型の教師なしクラスタリングにより、4つのACサブタイプが明らかになり、臨床的重症度は有害なDNVの存在と相関していた。これらのデータは、脳と髄膜の発生の協調的な調節についての知見をもたらし、ACの病因にはDNVによるエピゲノムの調節不全が関わっていることを示唆している。我々の結果は予備的なもので、ACは、適切な臨床状況では、遺伝的検査や神経行動学的追跡調査が必要な神経発生病変の前兆を放射線学的に示している可能性があることを指摘している。これらのデータは、散発性の脳構造疾患を解明するシステムレベルのマルチオミクス手法の有用性を明らかにしている。