うつ病:ゲノム規模の解析に基づいたうつ病の病態生理と再発および併存精神疾患のリスク予測
Nature Medicine 29, 7 doi: 10.1038/s41591-023-02352-1
うつ病はよく見られる精神疾患であり、世界中で精神障害の主な原因の1つとなっている。本報告で我々は、合計で130万人以上(うつ病患者37万1184人)からなる6つのデータセットのゲノムワイド関連解析のメタ解析を実施し、243のリスク座位を特定した。全体として、64の座位が新規であり、この中には抗うつ剤の標的である、グルタミン酸受容体およびGABA受容体をコードする遺伝子が含まれていた。機能的ゲノミクスデータとの共通部分から、おそらく病因である(likely causal)遺伝子に優先順位が付けられ、また、これらの遺伝子の発現は出生前の段階から、GABA作動性ニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの細胞系譜に濃縮されていることが新たに明らかになった。うつ病は、高度に多遺伝子性であり、約1万1700のバリアントにより一塩基多型の遺伝率の90%が説明されること、同方向の効果を持つバリアントと逆方向の効果を持つバリアントの両方を考慮した場合、他の精神疾患(不安症、統合失調症、双極性障害、注意欠如多動性障害)のリスクバリアントの95%以上がうつ病リスクに影響を及ぼしていると推定されること、また、うつ病のリスクバリアントのほぼ全てが学歴に影響を及ぼしていることが分かった。さらに、うつ病の遺伝的リスクは、複雑な認知領域の障害と関連があった。我々は、遺伝的不均一性と臨床的不均一性を詳細に分析し、うつ病のサブグループ間での異なる多遺伝子構造を明らかにし、また、うつ病にはかなりの性差があるが、多遺伝子負荷が最も高いうつ病症例においては、再発や他の精神疾患を併存する絶対リスクが有意に上昇していることを実証した。このリスクは、多遺伝子負荷が最も低い症例に比べて最大5倍、背景集団に比べて最大32倍高かった。これらの結果は、うつ病の根底にある生物学的性質、当該疾患の進展に対する理解を深め、精密医療による治療手法への情報を与えるものとなる。