アルツハイマー病:脳脊髄液中のMTBR-tau243はアルツハイマー病におけるタウ病理に特異的なバイオマーカーである
Nature Medicine 29, 8 doi: 10.1038/s41591-023-02443-z
不溶性タウの凝集は、アルツハイマー病を定義する2つ病理学的特徴のうちの1つである。アルツハイマー病の臨床症状はタウ病理と強く相関しているので、費用対効果に優れ、かつ臨床現場で幅広く使用可能なタウ病理特異的な体液バイオマーカーが、治療薬開発や臨床診断のために求められている。しかし、タウ病理を特異的に追跡できる体液バイオマーカーは、現状報告されていない。本論文では、タウの243番残基を含む微小管結合領域のタンパク質断片(MTBR-tau243)が、タウ病理に特異的な、新たな脳脊髄液(CSF)バイオマーカーであることを示す。我々は独立した2つのコホート(BioFINDER-2〔n = 448〕とKnight Alzheimer Disease Research Center〔n = 219〕)において、MTBR-tau243とこれ以外の複数のリン酸化タウ(p-tau181、p-tau205、p-tau217、p-tau231)のバイオマーカー特性を比較した。その結果、MTBR-tau243は、タウの陽電子放射断層撮影法(タウPET)および認知機能に対して最も強い関連性を示す一方で、アミロイドPETとの関連性は最も低いことが明らかになった。また、MTBR-tau243をp-tau205と組み合わせることで、タウPET検査で得られる所見を高い精度で定量的に予測することができた(0.58 ≤ R2 ≤ 0.75)。さらに、この組み合わせによる認知機能の予測性能(0.34 ≤ R2 ≤ 0.48)は、タウPETによる予測性能(0.44 ≤ R2 ≤ 0.52)に匹敵するものであった。CSF中のMTBR-tau243濃度は、他のp-tau種とは異なり、脳内の不溶性タウ凝集体の発生開始以降も継続的に増加した。従って、CSF中のMTBR-tau243は、タウ病理の特異的バイオマーカーであり、薬剤介入試験における薬効モニタリングやアルツハイマー病の診断に利用できる可能性がある。我々はこれらの知見に基づき、現在国際ワーキンググループにて改定案が議論されているアルツハイマー病の診断基準「A/T/(N)」におけるタウ病理(T)を判定するバイオマーカーとして、MTBR-tau243を含めることを提案する。