宿主SHP1ホスファターゼはピロリ菌(Helicobacter pylori)CagAの発がん活性に対抗するが、その発現はエプスタイン・バーウイルスにより抑制されうる
Host SHP1 phosphatase antagonizes Helicobacter pylori CagA and can be downregulated by Epstein–Barr virus
2016年3月14日 Nature Microbiology 1 : 16026 doi: 10.1038/nmicrobiol.2016.26
全てではないが大多数の胃がんは、cagA陽性ピロリ菌(Helicobacter pylori)株の胃粘膜慢性感染を基盤に発症する。約10%の胃がん症例では、ピロリ菌に加え、エプスタイン・バーウイルス(EBV)ががん細胞に感染している。cagA遺伝子にコードされるCagAタンパク質は、IV型分泌機構を介して胃上皮細胞内に送り込まれた後、初期にはSrcファミリーキナーゼ(SFK)により、その後はc-AblキナーゼによりGlu-Pro-Ile-Tyr-Ala(EPIYA)モチーフがチロシンリン酸化を受ける。チロシンリン酸化されたCagAは、発がん促進的に働くタンパク質チロシンホスファターゼSHP2と結合し、そのホスファターゼ活性を脱制御することで、胃がんの発症に重要な役割を担うと考えられている。本研究では、SHP2のホモログであるSHP1が、EPIYAモチーフとは無関係にCagAと相互作用することを明らかにする。この相互作用によりホスファターゼ活性が増強したSHP1は、EPIYAモチーフを脱リン酸化することでCagAの発がん活性を減弱させる。in vitroで胃上皮細胞にEBVを感染させると、SHP1遺伝子のプロモーターの強いメチル化が誘導され、このメチル化によるSHP1発現のエピジェネティックな抑制を介して、リン酸化依存的なCagAの発がん活性が増強する。EBV陽性胃がん患者から摘出したがん組織においても、SHP1遺伝子プロモーターの過剰メチル化ならびにSHP1発現の低下が認められる。本研究成果から、SHP1がこれまで追い求められていたCagAを抑制するホスファターゼであることが明らかになった。SHP1の発現抑制によるピロリ菌がんタンパク質CagAの活性増強が、EBV陽性胃がんの発症にも寄与する可能性が考えられる。