バイアスシグナル伝達:単純なスイッチからアロステリックなマイクロプロセッサーへ
Nature Reviews Drug Discovery 17, 4 doi: 10.1038/nrd.2017.229
タンパク質共役受容体(GPCR)は、ヒトゲノムの中で最大の受容体クラスであり、最も一般的な薬剤標的のいくつかはGPCRである。GPCRがヘテロ三量体Gタンパク質、GPCRキナーゼ、β-アレスチンなど数種類のトランスデューサーを介してシグナル伝達を行うことは、今では十分に確立されている。こうしたシグナル伝達経路は、「バランスのとれた」アゴニストまたはアンタゴニストによって活性化または阻害されるが、「偏りのある」応答においても選択的に活性化できる。偏りのある応答は、バイアスリガンド、バイアス受容体またはシステムバイアスによって誘導されることがあり、そのいずれもがGタンパク質またはβ-アレスチンを介した選択的シグナル伝達を引き起こすことがある。多くのGPCRでは、Gタンパク質とβ-アレスチンが介在するシグナル伝達事象に、それぞれ独自の生化学的作用と生理的作用のあることが明らかになっており、バイアスシグナル伝達について、生理学を介在させた正確な薬理学的評価を行うことは、前臨床医薬品開発にとって非常に重要である。最近の構造研究で、GPCR–トランスデューサー複合体のスナップショットが得られたが、偏りのある応答を誘導する新規薬物を構造に基づいて設計する上で役立つと考えられる。GPCRに関する我々の理解は、オンとオフの2状態スイッチから多状態のアロステリックなマイクロプロセッサーへ進んだ。こうしたマイクロプロセッサーでは、バイアスリガンドから独自の構造情報が送り出され、この情報が処理されて、それぞれ独自の生物学的結果が生じる。治療薬としてのバイアスリガンドの開発は、薬の副作用が減り、有効性が向上する時代の到来を告げるものである。