精神医療のための精神展開薬の薬理学研究への期待と危険性
Nature Reviews Drug Discovery 21, 6 doi: 10.1038/s41573-022-00421-7
シロシビン、N,Nʹ-ジメチルトリプタミン(DMT)やリサルグ酸ジエチルアミド(LSD)などの精神展開薬(幻覚剤)は、治療効果の発現が早いため、さまざまな神経精神疾患に対して有用な薬剤として見直されている。特に、シロシビンは第II相試験において、うつ病と不安神経症の患者に1〜2回の投与で統計的に有意な臨床効果を示すことが明らかになった。こうした知見によって商業的関心が一気に高まり、精神展開薬によるさまざまな疾患の治療機会を模索しようと、すでに60社近くが設立されている。また、このような注目すべき現象学的観察と臨床観察の結果は、この研究空間の可能性を最大限引き出すために解明する必要のある分子レベルの作用機構に関する仮説を構築する上で有益な情報となっている。特に、5-HT2A受容体が精神展開薬の行動効果の重要なメディエーターであることを示す有力な証拠が存在しているにもかかわらず、中枢神経系における5-HT2A受容体の活性のどの側面が治療効果をもたらしているのかという点や、異なった特異性と選択性のプロファイルを有する新規化学プローブを数多く開発することによって治療効果をどの程度探し出せるのかといった点は、まだはっきり分かっていない。本論文では、新たに登場したこの治療薬分野について論じ、精神展開薬と精神展開薬から着想した治療薬にとっての機会と危険性に関して論争のある部分と合意が得られている部分の両方に言及する。そして、基礎科学のブレークスルーによって、精神展開薬から着想し、幻覚誘発作用や報酬作用を持たず、有効性が高まった治療薬の創薬と開発が導かれる過程について説明する。