患者由来のヒト誘導多能性幹細胞においてデュシェンヌ型筋ジストロフィーの初期病態をモデル化
Early pathogenesis of Duchenne muscular dystrophy modelled in patient-derived human induced pluripotent stem cells
2015年8月20日 Scientific Reports 5 : 12831 doi: 10.1038/srep12831
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、ジストロフィンの欠損によって引き起こされる進行性の筋萎縮と筋力低下を主症状とする難治性の遺伝性筋疾患である。DMDへの治療において重要なことは、DMDの病態の最も初期に観察される疾患特異的な表現型を捉え、それを効果的に抑制することであると考える。患者由来のヒト誘導多能性幹細胞(hiPSC)は創薬のための有望なツールである。今回我々は、hiPSCを用いたDMD治療のin vitro評価系について報告する。この系はDMDの初期の病態を再現しており、将来的にはDMDに対する薬剤スクリーニングに使用可能であると考える。hiPSCから作製した骨格筋細胞は炎症に修飾されていないことから、in vitroでDMDの初期の病態を再現するのに用いることができた。誘導した健常者由来骨格筋細胞とDMD由来骨格筋細胞には形態的および生理的な差異は見られなかった。しかし、in vitroでの電気刺激によりこれらの骨格筋細胞を収縮させると、DMD由来骨格筋細胞においてのみ顕著なカルシウムイオン(Ca2+)の流入が引き起こされた。エクソンスキッピング技術を利用してジストロフィンの発現を回復させると、DMD骨格筋細胞でのCa2+のこのような過剰流入が抑制され、クレアチニンキナーゼ(CK)の漏出も減少した。これらの結果は、患者由来iPSCから誘導された骨格筋細胞においてDMDの初期病態が効率的に再現できることをしているので、この系による新規薬剤の開発と評価が期待できる。
Emi Shoji, Hidetoshi Sakurai, Tokiko Nishino, Tatsutoshi Nakahata, Toshio Heike, Tomonari Awaya, Nobuharu Fujii, Yasuko Manabe, Masafumi Matsuo & Atsuko Sehara-Fujisawa