キャナリゼーションは、発生現象の頑健性としても知られるが、遺伝子型の変動や環境の影響があっても同じ表現型を生み出す生物の能力と説明される。ショウジョウバエでは、トリソラックス群タンパク質のHsp90とトランスポゾンのサイレンシングが、これまでにキャナリゼーションに関与していることが示されている。それにもかかわらず、キャナリゼーションの基盤となる分子機構は明らかになっていない。本論文では、ショウジョウバエの優性のKrirregular facets-1(KrIf-1)対立遺伝子に感受性の、眼の増殖アッセイを用いて、Piwi結合RNA(piRNA)経路がキャナリゼーションに関与するが、短鎖干渉RNAあるいはマイクロRNA経路は関与しないことを示す。そのうえ我々は、Hsp90、PiwiおよびHop(Hsp70/Hsp90 organizing protein homolog)で構成されたタンパク質複合体を単離し、また、この複合体のキャナリゼーションにおける機能を示した。我々のデータから、Hsp90とHopがPiwiを介してpiRNA経路を調節し、キャナリゼーションを仲介することが示される。さらに、これらのことから、現存の遺伝的多様性からもたらされる発現をエピジェネティックにサイレンシングすることと、トランスポゾンによって誘発される新しい遺伝的変動を抑制することが、piRNA経路によって仲介されるキャナリゼーションの基盤となる2つの主な機構であることが示される。