Letter 心疾患とエピジェネティクス:心臓前駆細胞におけるEzh2による エピジェネティックな遺伝子発現抑制が 出生後の心臓の恒常性維持に必須である 2012年3月1日 Nature Genetics 44, 3 doi: 10.1038/ng.1068 成体発症型疾患は出生前の胎内での事象と関係している可能性があるが、その仕組みについては明らかではない。Ezh2は、ポリコームタンパク質複合体を構成しているヒストンメチル化酵素である。発生の際にEzh2によってつけられた、特定遺伝子の発現抑制にかかわる標識は成体にあっても存続しており、当該遺伝子の転写は永続的に抑制されている。 しかしながら、出生後の臓器の恒常性維持におけるEzh2の機能は知られていない。ホメオドメイン転写因子Six1の遺伝子であるSix1は、その発現が心臓前駆細胞では観察されるが、心臓の分化に際しては定常的に抑制された状態にある。本論文では、Ezh2が心臓遺伝子の発現を抑制すること、そして、Six1の発現を抑えることによって、心疾患の発症を回避していることを示す。心臓前駆細胞のEzh2を欠失させると、出生後に心筋疾患が発症し、心臓遺伝子は発現抑制状態から脱していた。このとき、同時にSix1影響下にある骨格筋遺伝子の発現も活性化されていた。すなわちEzh2が欠失していると、Six1は心筋細胞肥大を引き起こし、骨格筋遺伝子を発現させる。さらにSix1の量を減じるように遺伝子操作したところ、Ezh2欠失型心臓は疾患発症を免れた。このように、分化途上の心臓前駆細胞においてSix1の発現がEzh2によって抑えられていることが、出生後の心臓における遺伝子発現の定常性および恒常性の維持に必須である。本研究成果は、胚の前駆細胞におけるエピジェネティックな発現調節の異常によって、成人病(生活習慣病)およびストレス応答の逸脱が引き起こされる可能性を示唆するものである。 Full text PDF 目次へ戻る