Analysis
がん:プロテオミクスおよびバイオインフォマティクスによって明らかになった、哺乳類SWI/SNF複合体のヒト悪性腫瘍におけるきわめて多様な役割
Nature Genetics 45, 6 doi: 10.1038/ng.2628
哺乳類SWI/SNF(mSWI/SNFもしくはBAF)複合体のサブユニットは、腫瘍抑制因子としてヒトの悪性腫瘍発生に関係しているとされている。これらのサブユニットがどのように発がんに関係しているか、その全貌を理解するため、内在性mSWI/SNF 複合体についてプロテオーム解析を行った。その結果、mSWI/SNF複合体の特異的かつ安定な構成サブユニットをいくつか新たに同定した。BCL7AおよびBCL7BおよびBCL7C、BCL11AおよびBCL11B、BRD9、SS18といったサブユニットは、酵母のSWI/SNF 複合体には存在していなかった。新たに判明したサブユニットを含めたmSWI/SNF構成サブユニットに関して、ヒトの原発性腫瘍のエキソームおよび全ゲノム塩基配列決定による解析を行い、 その変異の頻度を求めた。特筆すべきは、今回解析した44種類の研究に含まれる全腫瘍のうちの19.6%で、mSWI/SNFサブユニットに変異が生じていたことである。また特定の組織では、特定のサブユニットが組織特異的に発がんを抑制していることが示唆された。さらに、あるがんにおいては、複数のサブユニット遺伝子に変異が生じている(本論文では「複合ヘテロ接合性」と称する)割合が高かった。今回の研究成果は、mSWI/SNFがヒトがんにおいて最も高頻度に変異が生じているクロマチン調節複合体(CRC)であり、その変異パターンが、TP53の場合と同じく、多岐にわたることを説明するものである。したがって、多様な変異様式をとるBAF複合体が適切に機能していることが、腫瘍を抑制する主要機序の一部である可能性が浮上した。