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エピジェネティクス:広域のH3K4me3は、腫瘍抑制遺伝子の転写伸長およびエンハンサー活性の亢進と関連する
Nature Genetics 47, 10 doi: 10.1038/ng.3385
腫瘍抑制因子の多くは腫瘍で生じている変異を不活性化することを特徴とするが、正常細胞における腫瘍抑制因子のエピジェネティックな特徴はほとんど知られていない。1,134のゲノムワイドのエピジェネティックなプロファイル、8,200以上の腫瘍細胞-正常細胞ペアから得られた変異、我々の臨床試料実験データの3つを統合解析した結果、正常細胞における腫瘍抑制因子のエピジェネティックなシグネチャーとして、H3K4me3(ヒストンH3のリシン4番のトリメチル化)のピークが広域にわたる(4 kb超)ことを初めて見つけた。広域のH3K4me3は、転写伸長の亢進および転写エンハンサー活性と関連しており、これらが合わせて起こることにより、異例なほどの高い遺伝子発現が引き起こされる。また、スーパーエンハンサーなどといった他の広域なH3K4me3とも異なる特徴を示すものである。H3K4me3の広域のピークがさまざまな正常細胞で広く保存されている遺伝子は、TP53やPTENというように、全がん的な腫瘍抑制因子であるとみなせる。一方、広域のピークが細胞種特異的に見つかる遺伝子の場合は、細胞の特徴を決める遺伝子や細胞種特異的腫瘍抑制因子であると見なせる。そして、がんにおいては、このようなH3K4me3のピークの広範囲の短縮が見られ、腫瘍抑制因子の転写が妨げられていた。したがって、広域のH3K4me3というエピジェネティックなシグネチャーは、変異に依存しない指標であり、新たな腫瘍抑制因子の発見と特性解析のための情報として利用できる。