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乳がん:ER+転移性乳がんはHER2に変異が生じることで、エストロゲン受容体標的療法に抵抗性となる
Nature Genetics 51, 2 doi: 10.1038/s41588-018-0287-5
乳がんの70%はエストロゲン受容体(ER)を発現しており、ERを標的とする薬剤は乳がん治療の主流である。しかしながら実際には、ER陽性(ER+)乳がん患者で転移性が認められるものは例外なく、ER標的薬に抵抗性を示すようになる。ERそのものに起こった変異は、アロマターゼ阻害薬による治療を受けた患者全体の25~30%に認められる。このような臨床上の薬剤耐性を生じさせている、この変異以外の機構についての情報は不十分なままである。今回、アロマターゼ阻害薬、タモキシフェン、またはフルベストラントに耐性となっていたER+の転移性乳がん患者8人の転移性病変のバイオプシーにおいて、がん細胞を活性化するHER2変異を特定した。このHER2変異を有する5人の患者において、これまでに治療対象になったことのない原発腫瘍を詳細に調べたところ、そのうち4人で、それ以前に変異が存在した証拠は認められなかった。これは、この変異がER標的治療という選択圧下で獲得されたことを示唆している。ここで、HER2変異とER変異は、相互排他的であった。この知見は、ER標的治療に対する耐性獲得の機序が両者で明確に異なることを示している。さらにin vitro条件下では、HER2変異がエストロゲン非依存性に加えて、ER変異とは異なり、タモキシフェン、フルベストラント、CDK4およびCDK6の阻害薬であるパルボシクリブに抵抗性を示すことを確認した。この抵抗性は、ER標的療法にHER2キナーゼの不可逆的な阻害薬であるネラチニブを併用することで克服された。