Perspective
がん:発がんリスクにおける体細胞変異および環境中の腫瘍促進因子の重要性
Nature Genetics 52, 11 doi: 10.1038/s41588-020-00727-5
がんは「がんドライバー」遺伝子に生じたゲノム変異によって引き起こされる。ドライバー変異は腫瘍の発生に不可欠であり、環境中の変異原への曝露、あるいは組織幹細胞における内因性のDNA複製エラーによって生じ得る。組織学的に正常なヒト組織にも、がんドライバー変異などの変異が数多く認められることが近年報告され、変異のみでは腫瘍の発生に十分ではないと考えられるようになった。そのため、変異の生じた1個の細胞がどのようにして新生物に変化するのかという疑問が提起されている。マウス腫瘍モデルを用いた数十年にわたる研究で得られたデータが支持する仮説では、非変異原性の腫瘍促進因子が休眠状態にある変異細胞の増殖を活性化させ、それにより活発に増殖する病変を発生させると推測されており、その促進期が腫瘍形成の律速段階だと考えられている。従って、非変異原性の腫瘍促進因子は、それが内因性のものであれ環境中のものであれ、ヒトのがんの病因機序において、これまで考えられていたよりも重要な役割を果たしている可能性がある。