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幹細胞:ナイーブ多能性細胞におけるDNAメチル化の代謝制御

Nature Genetics 53, 2 doi: 10.1038/s41588-020-00770-2

ナイーブな胚盤葉上層や胚性幹細胞(ESC)からは、成体のあらゆる細胞が作られる。このような発生の可塑性は、ゲノムの低メチル化と関連している。今回我々は、LIF–Stat3シグナル伝達が、代謝の再構成を介してゲノムの低メチル化を誘導することを明らかにした。Stat3−/− ESCでは、グルタミン酸からのα-ケトグルタル酸産生が低下し、その結果としてDnmt3aDnmt3bの発現上昇と、DNAメチル化の増加が起こる。またゲノムメチル化は、ミトコンドリアにおけるα-ケトグルタル酸の利用可能性の調節あるいはStat3の活性化を介して動的に制御されることが分かった。α-ケトグルタル酸は、Otx2の発現やその標的であるDnmt3aDnmt3bの発現を低下させることで、代謝とエピゲノムを結び付けている。Otx2Dnmt3aDnmt3bを遺伝学的に不活性化したところ、LIF–Stat3の活性化がなくても、ゲノムの低メチル化が引き起こされた。Stat3−/− ESCでは、インプリンティング制御領域でのメチル化の上昇や、コグネイトな転写産物の発現変化が見られる。Stat3−/−胚の単一細胞解析では、Otx2Dnmt3aDnmt3bに加えて、インプリンティングされる遺伝子の発現調節に異常が確認された。いくつかのがんでは、Stat3の過剰活性化と異常なDNAメチル化が見られるため、病理学的な状態では、今回我々が報告した分子モジュールが使われている可能性がある。

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