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乳がん:H3K27me3はトリプルネガティブ乳がんの薬剤耐性を制御する

Nature Genetics 54, 4 doi: 10.1038/s41588-022-01047-6

治療抵抗性がん細胞の残存は、依然として臨床上の大きな課題である。トリプルネガティブ乳がんは、乳がんのサブタイプの中で最も再発リスクが高く、その原因は化学療法への抵抗性である。薬剤耐性はその大部分が非遺伝的に定義されると考えられるが、その基盤となる機構はほとんど理解されていない。本研究では、エピゲノム、トランスクリプトーム、および細胞系譜の単一細胞解析により、転写抑制修飾であるH3K27me3(ヒストンH3リシン27のトリメチル化)が、化学療法の開始時に細胞運命を制御することを示す。残存細胞の発現プログラムは未治療細胞においてすでに、H3K4me3(ヒストンH3リシン4のトリメチル化)とH3K27me3の両方により待機状態にされており、H3K27me3がその発現プログラムの転写活性化を抑え込んでいた。H3K27me3を除去することにより、がん細胞の持つ化学療法への耐性が高まることが示された。反対に、化学療法と同時にH3K27me3の脱メチル化を妨げると、薬剤耐性状態への移行が抑制され、生体内での腫瘍の再発が遅延した。本研究は、初期治療に対するがん細胞の反応性が、クロマチン状態によっていかに形成され得るかを明らかにした。

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