Communications Materials に掲載された一次研究論文(Articles および Letters)について、その概要を日本語で紹介しています。
Plant-like hooked miniature machines for on-leaf sensing and delivery
doi: 10.1038/s43246-021-00208-0
in situ植物応用向けの小型システムは、自然生態系の理解と保護に重要である。本論文では、生物に着想を得たマイクロフックを植物の葉の表面に取り付けることが検討され、状態モニタリングや分子送達向けに植物葉面上で動作するソフトマシンが作製されている。
Enhanced coherence of all-nitride superconducting qubits epitaxially grown on silicon substrate
doi: 10.1038/s43246-021-00204-4
長いコヒーレンス時間は、超伝導量子ビットの重要な特性であるが、従来のAl系ジョセフソン接合では微視的2準位系によって制限されている。本論文では、Si 上のNbN系量子ビットによってこの制約が克服されることが見込まれ、エネルギー緩和時間T1 = 16.3 μs、スピンエコー位相緩和時間T2 = 21.5 μsが示されている。
Reducing crystallinity in solid polymer electrolytes for lithium-metal batteries via statistical copolymerization
doi: 10.1038/s43246-021-00187-2
ポリエチレンオキシドは、固体リチウム金属電池向けの一般的な固体高分子電解質である。本論文では、統計共重合は効果的な結晶性低減方法であり、室温電池動作時に高いイオン伝導率を可能にすることが示されている。
Virtual experimentations by deep learning on tangible materials
doi: 10.1038/s43246-021-00195-2
人工知能は、新材料の発見を顕著に加速させる可能性があるが、非周期的構造には容易に適用できない。本論文では、ディープラーニング・フレームワークが、さまざまなスケールと組成の仮想構造を生成することによって、実際のカーボンナノチューブの特性を予測することが提案されている。
Blocking lithium dendrite growth in solid-state batteries with an ultrathin amorphous Li-La-Zr-O solid electrolyte
doi: 10.1038/s43246-021-00177-4
固体リチウム金属電池におけるデンドライトの形成と成長は、一般的な故障原因である。本論文では、薄膜アモルファスLi-La-Zr-Oは、リチウム貫通に対する高い耐性を示すので、薄膜固体電池用やバルクセラミックス電解質のコーティングとして有望であることが示されている。
Chemical stability of hydrogen boride nanosheets in water
doi: 10.1038/s43246-021-00184-5
ナノスケールのホウ素系材料は電子デバイスに有望であり、その化学的安定性を理解することが重要である。本論文では、ホウ化水素ナノシートが水中での加水分解に対して安定であり、この安定性がホウ素の電荷状態とホウ素-ホウ素結合ネットワークに起因することがab initio計算によって示されている。
Self-healing liquid metal composite for reconfigurable and recyclable soft electronics
doi: 10.1038/s43246-021-00169-4
フレキシブルなエレクトロニクスデバイスへの関心が高まっているが、そうしたデバイスは柔らかい性質を持つため損傷を受けやすい。本論文では、液体金属-エラストマー複合材料が自己治癒することが示されている。また、この複合材料は、電気抵抗をあまり変化させずに1200%伸長可能であり、導電回路の再構成を可能にする。
Physical and chemical imaging of adhesive interfaces with soft X-rays
doi: 10.1038/s43246-021-00168-5
ポリマー複合材料の接着メカニズムは、接着によって結合界面が埋もれてしまうため、理解が困難である。本論文では、軟X線を用いて界面の化学的・物理的性質が調べられ、接着メカニズムや結合強度に影響を及ぼすマルチスケール因子が明らかになっている。
Fast in-situ X-ray scattering reveals stress sensitivity of gypsum dehydration kinetics
doi: 10.1038/s43246-021-00156-9
石膏の脱水を理解することは、流体に起因する地震や、建設業での石膏利用に重要である。本論文では、小さな弾性荷重が脱水反応速度を大幅に加速させ、加熱よりもはるかに効果的であることがX線散乱によって明らかになっている。
Tunable spin-valley coupling in layered polar Dirac metals
doi: 10.1038/s43246-021-00152-z
非中心対称性結晶におけるスピン・軌道結合は、興味深いフェルミ面のスピン・運動量ロックを引き起こす。本論文では、極性金属BaMnX2 (X = Bi, Sb)の電子構造から、Xサブ格子歪みに対する高い敏感性が、化学的に調整可能なディラックフェルミオンのスピン・バレー結合につながることが明らかになっている。
Frustrated magnet for adiabatic demagnetization cooling to milli-Kelvin temperatures
doi: 10.1038/s43246-021-00142-1
断熱消磁冷却は、効率よくmK温度に到達させる技術である。本論文では、水を含まないフラストレート磁性体KBaYb(BO3)2が、冷却効率と、空気、真空、熱にさらされたときの安定性を兼ね備えており、通常用いられている水を多く含む常磁性塩の代替物質となることが示されている。
Supramolecular cocrystals built through redox-triggered ion intercalation in π-conjugated polymers
doi: 10.1038/s43246-021-00148-9
π共役半導体ポリマーの分子ドーピングによって電荷キャリア密度を増大させることが可能である。本論文では、ゲストドーパントがラメラ構造中の限定された空隙に位置することが見いだされ、層状ポリマーとゲストインターカラントで構成されるインターカレーション化合物が明らかになっている。
Photovoltaic retinal prosthesis restores high-resolution responses to single-pixel stimulation in blind retinas
doi: 10.1038/s43246-021-00133-2
人工網膜が直面している大きな課題は、広い視野にわたって神経細胞を活性化できることである。本論文では、10,000個以上のピクセルを持つ光起電人工網膜上膜が、広い網膜カバー範囲とシングルピクセル照明を示し、マウスモデルにおいて高空間分解能の識別が可能になっている。
Spin-states in MoS2 thin-film transistors distinguished by operando electron spin resonance
doi: 10.1038/s43246-021-00129-y
スピン状態の特性を特定することは、見込まれるMoS2薄膜トランジスターの磁気的応用の理解に不可欠である。本論文では、電子スピン共鳴を用いて、デバイス動作中に、MoS2における伝導電子と原子空孔のスピン状態が識別され、調べられている。
Potential health and economic impacts of dexamethasone treatment for patients with COVID-19
doi: 10.1038/s41467-021-21134-2
デキサメタゾンは、英国においてCOVID-19で入院した重症患者について延命効果があることが示された。本論文では、英国および世界においてデキサメタゾンの投与を通して救命しえた患者の数が推定され、デキサメタゾンが費用効率の高い選択肢であることが示されている。
Molecular mechanisms of cell cryopreservation with polyampholytes studied by solid-state NMR
doi: 10.1038/s43246-021-00118-1
細胞の凍結保存は、現代生物学において重要な手段である。本論文では、過去に報告された両性電解質高分子凍結保護剤が固体NMRによって調べられており、作用中の分子メカニズムが明らかになっている。
Stretchable micro-scale concentrator photovoltaic module with 15.4% efficiency for three-dimensional curved surfaces
doi: 10.1038/s43246-020-00106-x
現実世界の応用においてエネルギーハーベスティングに太陽電池デバイスを用いるには、そうしたデバイスが非平坦表面に追従可能である必要がある。本研究のマイクロスケール集光器モジュールは、15.4%の屋外変換効率を示すうえ、引き伸ばして3D曲面を覆うことができる。
Moisture resistance in perovskite solar cells attributed to a water-splitting layer
doi: 10.1038/s43246-020-00104-z
鉛ハライドペロブスカイトの環境安定性が低いため、ペロブスカイト太陽電池の性能が制限されている。本論文では、CuSCNナノプレートレット/p型半導体ポリマーコンポジット層が、水分解に起因して、高湿度条件下で28日間にわたって安定な太陽電池性能を可能にしている。
Deterioration mechanism of perovskite solar cells by operando observation of spin states
doi: 10.1038/s43246-020-00099-7
ペロブスカイト太陽電池は、電力変換効率が大幅に改善されてきたが、内因的な劣化がまだ明らかにされていない。本論文では、オペランド電子スピン共鳴を用いてスピン状態の数が調べられ、その変化と動作中のデバイス性能が関係付けられている。
Synthesis of 14C-labelled polystyrene nanoplastics for environmental studies
doi: 10.1038/s43246-020-00097-9
ナノプラスチックは重大な環境リスクであり、ナノプラスチックがどこでどのようにして環境中に放出されるかを把握することが重要である。本論文では、環境研究に使用できる放射性標識ナノポリスチレンをワンステップで合成する簡便な方法が報告されている。
Extreme shear-deformation-induced modification of defect structures and hierarchical microstructure in an Al–Si alloy
doi: 10.1038/s43246-020-00087-x
合金の極端な変形は、加工や応用に重要である。本論文では、Al–Si合金の極端なせん断変形によって微粒化、マルチスケールのラメラ分断化、さまざまな欠陥の生成が誘起され、これによりマイクロピラーの機械的特性が向上している。
Recombinant collagen polypeptide as a versatile bone graft biomaterial
doi: 10.1038/s43246-020-00089-9
高齢化社会に起因して、合成骨移植材料が必要になっている。本論文では、汎用的な生分解性リコンビナントコラーゲンポリペプチド・スキャホールドを工学的に作製することで、臨床前動物モデルにおいて骨再生が誘導されている。
Nacre toughening due to cooperative plastic deformation of stacks of co-oriented aragonite platelets
doi: 10.1038/s43246-020-00078-y
真珠層の階層構造は、高い強度と靭性の一因となっていることが知られており、多くの生体模倣材料に着想をもたらしている。本論文では、20 µmの共配向アラゴナイト板状晶積層体が真珠層の靭性に寄与することが示され、新しい特徴長さスケールが規定されている。
Piezoelectricity in perovskite-type pseudo-cubic ferroelectrics by partial ordering of off-centered cations
doi: 10.1038/s43246-020-00072-4
強い圧電性は、一般的に強誘電ドメインの再配列に起因し、立方晶系では現れないと予想されている。本論文では、擬立方晶系0.3BaTiO3–0.1Bi(Mg1/2Ti1/2)O3–0.6BiFeO3の強い圧電性が、あらゆる電場印加方向に適応したBiイオンの部分的秩序化の観点から説明されている。
Untethered and ultrafast soft-bodied robots
doi: 10.1038/s43246-020-00067-1
高速作動可能なロボット装置の実現は困難である。本論文では、低磁場で駆動されるソフトロボット装置が、最高100 Hzの周波数で大きな変形を示し、クロスクラッピング、歩行、遊泳、生きたハエを捕まえるなどのさまざまな動作を可能にしている。
Water droplet friction and rolling dynamics on superhydrophobic surfaces
doi: 10.1038/s43246-020-00065-3
疎水性コーティングは、現代技術において重要性が増しているが、極端なノンウェッティング極限では研究が難しい。本論文では、マイクロピペットフォースセンサーでnNスケールの摩擦力を直接測定できており、粒子画像速度測定法と合わせることで、低速水滴の純粋な転がりダイナミクスを明らかにしている。
Room-temperature quantum spin Hall phase in laser-patterned few-layer 1T′- MoS2
doi: 10.1038/s43246-020-00050-w
量子スピンホール(QSH)相は、二次元トポロジカル絶縁体の重要な特徴であり、一般的に100 K未満の温度で観測される。本論文では、低パワーレーザービーム照射によって2H半導体相上にパターニングされた数原子層1T′-MoS2において、室温量子スピンホール相が観測されたことが報告されている。
High performance crystalline nanocellulose using an ancestral endoglucanase
doi: 10.1038/s43246-020-00055-5
酵素は、天然材料を高性能生体材料にアップグレード化するのに効果的である。本論文では、祖先型エンドグルカナーゼを用いて高結晶性セルロースナノ結晶を得ている。この結晶は、細胞増殖用マトリックスとしての機能を果たすほか、グラフェンと組み合わせると導電性インクを形成できる。
Catalysis-free transformation of non-graphitising carbons into highly crystalline graphite
doi: 10.1038/s43246-020-0045-y
難黒鉛化性炭素材料は、一般的に、金属触媒を用いないとグラファイト(黒鉛)に変換できない。本論文では、触媒を用いない高温パルスによって、ポリ塩化ビニリデンやセルロースが高秩序グラファイトに変換されることが示されている。
Integrating multiple materials science projects in a single neural network
doi: 10.1038/s43246-020-00052-8
従来から、材料科学の機械学習は、データベース固有のモデルに基づいており、予測可能なパラメーターの数に限界がある。今回、汎用的なグラフベースのニューラルネットワークで複数のデータソースを統合でき、同時に40以上のパラメーターの予測が可能になっている。
Small bandgap in atomically precise 17-atom-wide armchair-edged graphene nanoribbons
doi: 10.1038/s43246-020-0039-9
アームチェア型グラフェンナノリボンは、幅に依存するバンドギャップを特徴とし、将来の半導体デバイスにおいて極めて重要視される可能性がある。今回、17原子幅のナノリボンにおいて0.19 eVという小さなバンドギャップが達成されており、電界効果トランジスターの輸送特性向上が期待される。
Lithium-doped two-dimensional perovskite scintillator for wide-range radiation detection
doi: 10.1038/s43246-020-0038-x
二次元ハロゲン化鉛ペロブスカイトは、光収率が高く、減衰速度が速く、製作コストが低いため、X線およびγ線シンチレーターとして大きな可能性を示している。今回、Liドーピングによってα粒子/γ線識別と熱中性子検出が実現されたことで、その汎用性が広がっている。
Hysteresis-less and stable perovskite solar cells with a self-assembled monolayer
doi: 10.1038/s43246-020-0028-z
ペロブスカイト太陽電池が直面する共通の問題は、電流-電圧ヒステリシスと光照射時の劣化である。今回、SnO2電子輸送層への自己集合単層の適用が、無ヒステリシス挙動の実現と1000時間照射後の劣化の抑制に役立っている。
Stable microstructure in a nanocrystalline copper–tantalum alloy during shock loading
doi: 10.1038/s43246-020-0024-3
材料への衝撃負荷によって、微細構造が変化し、機械的性能がかなり低下する。本論文では、ナノ結晶Cu–Ta合金に衝撃を負荷しても、変形中に欠陥が消滅するため、微細構造と機械的性能がわずかしか変化しかしないことが見いだされている。
Design principles for efficient photoelectrodes in solar rechargeable redox flow cell applications
doi: 10.1038/s43246-020-0020-7
光電極の合理的設計は、光電気化学レドックスフロー電池の変換効率向上のための重要な要件である。本論文では、バンドアライメント設計と表面被覆率制御を用いて単一光子光電極が設計され、太陽光から化学エネルギーへの変換効率9.4%が達成されている。
Understanding degradation of organic light-emitting diodes from magnetic field effects
doi: 10.1038/s43246-020-0019-0
有機発光ダイオードの寿命を改善するには、劣化過程を理解する必要がある。本論文では、デバイス劣化の非破壊的指標として磁場効果が利用できることが示されている。
Predicting structure zone diagrams for thin film synthesis by generative machine learning
doi: 10.1038/s43246-020-0020-7
薄膜の微細構造の制御は、特性の調節に不可欠である。本論文では、機械学習を適用して合成-組成-微細構造の関係を薄膜の構造ゾーン図の形で得ており、これにより微細構造予測が可能になっている。
Simultaneous effect of strain rate and humidity on the structure and mechanical behavior of spider silk
doi: 10.1038/s43246-020-0011-8
クモ糸はその強靭性でよく知られている。本論文では、ひずみ速度と湿度が靭性に与える同時影響に関する総合的な研究が報告されており、自然界と似た温和な湿度条件と高ひずみ速度条件の下で、靭性が最高になることが明らかになっている。