Nature Reviews Physics に掲載された Review Article また Perspective について、その概要を日本語で紹介しています。
Creating designer quantum states of matter atom-by-atom
doi: 10.1038/s42254-019-0108-5
本Reviewでは、走査型トンネル顕微分光法を用いて、表面に個々の原子のパターンを形成することによって、ディラック物質や複雑な磁気秩序などの物質量子状態をボトムアップで生み出した後、その特性を評価する方法を論じている。
Viewing Earth’s surface as a soft-matter landscape
doi: 10.1038/s42254-019-0111-x
地球や惑星の地形は、ソフトマター、すなわち流体乱流からプレートテクトニクスまで幅広いスペクトルの励起に応答して変形する無定形物質で構成されている。本Reviewでは、既存の物理学の枠組みに異を唱えて新しいアプローチをもたらす可能性がある、地球物質の複雑な挙動について概説する。
Taking atom interferometric quantum sensors from the laboratory to real-world applications
doi: 10.1038/s42254-019-0117-4
原子干渉計に基づく量子センサーは、計測学、地球物理学、宇宙、土木工学、石油や鉱物の探査、ナビゲーションなどの分野において、基礎研究から商業的応用へ移行しつつある。しかし、多くの課題を克服する必要がある。
Probing and controlling magnetic states in 2D layered magnetic materials
doi: 10.1038/s42254-019-0110-y
2D磁性物質の出現は、新領域の磁性とスピントロニクスデバイスを調べるまたとない機会をもたらしている。本Reviewでは、2D磁性物質の基本特性、磁性状態の読み出し・書き込み方法、新たなデバイスコンセプトが概説されている。
Imaging the nucleus with high-energy photons
doi: 10.1038/s42254-019-0107-6
重原子核では、陽子や中性子のパートン(クォークとグルーオン)構造が変化している。本Reviewでは、光子誘起相互作用の研究で原子核中のパートンの密度分布を明らかにすることによって、高密度環境における量子色力学を探る方法が概説されている。
Rogue waves and analogies in optics and oceanography
doi: 10.1038/s42254-019-0100-0
流体力学と光学における波の伝搬の類似性から、海洋での巨大ローグ波形成につながる機構に新しい知見が得られている。本Reviewでは、この分野における実験的進歩と現場計測について概説している。
Multi-messenger astrophysics
doi: 10.1038/s42254-019-0101-z
マルチメッセンジャー天体物理学は、宇宙の放射源によって放出された宇宙線、ニュートリノ、重力波、光子から得られる情報を総合的に扱う新しい分野である。本Reviewでは、この分野について概説し、その課題とエキサイティングな可能性を浮き彫りにしている。
Enabling real-time multi-messenger astrophysics discoveries with deep learning
doi: 10.1038/s42254-019-0097-4
マルチメッセンジャー天体物理学における発見の可能性を深層学習を用いて高める方法が、専門家グループによって提案された。
Angle-resolved photoemission spectroscopy and its application to topological materials
doi: 10.1038/s42254-019-0088-5
角度分解光電子分光法(ARPES)は、固体の電子構造を直接調べる手法であり、トポロジカル物質研究において重要な役割を果たしている。本Technical Reviewでは、各種ARPES技術の最新の進展とトポロジカル物質への応用について検討している。
Dynamics of quantum information
doi: 10.1038/s42254-019-0090-y
量子情報のダイナミクスは、複雑多体系の挙動について新たな展望を開きつつある。本Perspectiveでは、広いパラメーター領域での量子相関、量子エンタングルメント、量子情報スクランブリングのダイナミクスの研究において原子気体やトラップイオンを用いてなされた進歩を論じている。
Tensor networks for complex quantum systems
doi: 10.1038/s42254-019-0086-7
多体系におけるエンタングルメントを理解することによって、テンソルネットワークの観点から複雑量子状態の記述が可能になった。本Reviewでは、主なテンソルネットワーク構造、その数値的方法の背後にある重要な考え、物性物理学の枠を越える分野への応用を再考している。
Soft condensed matter physics of foods and macronutrients
doi: 10.1038/s42254-019-0077-8
本Reviewでは、ポリマー、コロイド、界面活性剤に関する確立された理論の基礎を基に食品の主要成分の特性を明らかにすることによって、ソフトマター物理学を用いて複雑な食品系の理解を促す方法と、これに伴う課題に取り組んでいる。
Applications of silicon strip and pixel-based particle tracking detectors
doi: 10.1038/s42254-019-0081-z
半導体技術の進歩によって、素粒子物理学において多くのシリコン追跡検出器の設計の進展が可能になった。本Technical Reviewでは、現在の最先端技術について概説するとともに、課題、今後の方向性、素粒子物理学以外への最近の応用例について論じている。
The BESIII physics programme
doi: 10.1038/s42254-019-0082-y
BESIIIにおける重心系エネルギー2.0 GeV~4.6 GeVでの電子陽電子対消滅実験によって、素粒子物理学の標準模型の基本定数の精密測定が可能になり、非標準的な多クォークハドロンが発見されるとともに標準的なメソンやバリオンの多くの特異な特性が観測された。
Nucleation, mapping and control of cavitation for drug delivery
doi: 10.1038/s42254-019-0074-y
本Reviewでは、がんや脳卒中などの疾病の治療を目的として、音響キャビテーションを用いて薬物送達を改善する手法が検討され、キャビテーションのシーディング方法、治療のモニタリング、現在および将来の臨床応用が述べられている。
Atoms and molecules in the search for time-reversal symmetry violation
doi: 10.1038/s42254-019-0080-0
原子や分子の電気双極子モーメント(EDM)は、標準模型を超える時間反転対称性の破れの原因を探るための高感度プローブである。本Perspectiveでは、原子や分子を用いたEDM探索の最近の進展を振り返るとともに、次世代実験案を概説している。
Buffering by buckling as a route for elastic deformation
doi: 10.1038/s42254-019-0063-1
座屈は、薄い物体が圧縮に対して示すありふれた応答である。小規模の座屈が緩衝器として働くことで物体が新しい変形モードに変化できるようになることは、あまり知られていない。本Reviewでは、この現象の例を示すとともに、この現象が可能になる物理的条件について述べる。
Geometric phase from Aharonov–Bohm to Pancharatnam–Berry and beyond
doi: 10.1038/s42254-019-0071-1
幾何学的位相は、現代物理学や関連する科学分野における奥深く有力な概念である。本Reviewでは、その起源、数学的定式化、さまざまな種類(その一部はトポロジカル)を手短に述べ、次に、現代の光学や凝縮物質への応用について詳細に述べる。
Galaxy formation and evolution science in the era of the Large Synoptic Survey Telescope
doi: 10.1038/s42254-019-0067-x
大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)は、近々完成予定の掃天望遠鏡で、完成すれば南半球全体の空を広い範囲の色で詳細に観測できるようになる。我々は、銀河の形成と進化の分野におけるLSSTの科学的機会と技術的課題について述べる。
Stochastic weather and climate models
doi: 10.1038/s42254-019-0062-2
物理的な気候システムを記述する微分方程式は決定論的であるが、理論的にも実際的にも、コンピューターによるこうした方程式の表現が確率論的になるべき理由がある。本Perspectiveでは、確率論的な気象・気候モデリングの利点を概説する。
Imaging with quantum states of light
doi: 10.1038/s42254-019-0056-0
イメージングに光の量子状態を用いることによって、量子現象が明らかになるとともに、古典限界を超える画像を得る新しいプロトコルが可能になる。そうしたシステムには、量子光源に加えて、多くの場合、検出器技術の巧妙な利用が必要になる。
Single-molecule quantum-transport phenomena in break junctions
doi: 10.1038/s42254-019-0055-1
単一分子を通る輸送の量子的側面は、室温で観測できる。本 Technical Reviewでは、単一分子接合を通る電荷輸送に関与するさまざまな過程やエネルギースケール、それによってもたらされる電子的機能、こうした機能を制御してナノスケールデバイスを実現できる新たな可能性について論じている。
Quantifying transmission electron microscopy irradiation effects using two-dimensional materials
doi: 10.1038/s42254-019-0058-y
原子レベルで精密な測定を2D物質に用いれば、高エネルギー電子照射の効果を定量化できる可能性がある。本Perspectiveでは、電子–物質相互作用の理解が、広範な物質に一般化できる定量的モデルの開発を促進するのにどのように役立つかが論じられている。
The statistical physics of cities
doi: 10.1038/s42254-019-0054-2
本Perspectiveでは、都市における空間構造、社会組織、人口分布、移動性、重要な要素が人口とともにどう変化するかなど、都市の主要な側面を理解するのに統計物理学がどのように役立つかが述べられている。
Black phosphorus and its isoelectronic materials
doi: 10.1038/s42254-019-0043-5
層状の黒リンとその等電子物質であるIV族モノカルコゲニドには、独特な結晶対称性に起因する特徴的な物理特性がある。本Reviewでは、この物質群に関する興味深い物理現象、考えられるデバイス応用、今後の研究の方向性について論じている。
The physics of brain network structure, function and control
doi: 10.1038/s42254-019-0040-8
脳は典型的な複雑系であり、信じがたいほどの認知力を持ち、さまざまな行動を支えている。脳の複雑さから多くの説得力のある組織化原理を引き出すのに、物理学ができることは多い。
Revealing key structural features hidden in liquids and glasses
doi: 10.1038/s42254-019-0053-3
非晶質物質の局所的構造に関する知見は、その物理特性を理解するのに根本的に重要である。本 Reviewでは、局所構造解析法の最近の進展について述べ、液体やガラスにおける謎めいた現象に新たな光を当てている。
Topological quantum matter in synthetic dimensions
doi: 10.1038/s42254-019-0045-3
人工次元は、他の自由度を通して新たな空間次元を人工的に追加する方法をもたらす。本Perspectiveでは、人工次元がどのようにして原子系、分子系、光学系におけるトポロジカル格子模型の量子シミュレーションの有望な手段となったのか概説する。
From mechanical resilience to active material properties in biopolymer networks
doi: 10.1038/s42254-019-0036-4
生体高分子ネットワークによって、機械的完全性が得られ、細胞や組織の能動的変形が可能になる。本論文では、還元主義的アプローチに重点を置いて、生体高分子ネットワークの機械的挙動に関する最近の実験研究と理論研究を概説している。
Concept and realization of Kitaev quantum spin liquids
doi: 10.1038/s42254-019-0038-2
キタエフ量子スピン液体は、長距離エンタングルメントや創発的なマヨラナフェルミオンを示すエキゾチックな物質相である。本Reviewでは、遷移金属化合物におけるキタエフ模型物理の実現のコンセプトと最近の進展についてまとめている。
Topological phases in acoustic and mechanical systems
doi: 10.1038/s42254-019-0030-x
本Reviewでは、音響・機械系において実現される可能性があるトポロジカル現象を説明している。対称性を破る方法に加え、その影響と出現する豊富な現象が述べられている。
Frontiers in multidimensional self-trapping of nonlinear fields and matter
doi: 10.1038/s42254-019-0025-7
多次元自己捕獲状態は、物理系の多くのモデルに存在する。しかし、そうした状態は、普遍的な三次非線形性を示す媒質中では非常に不安定である。我々は、非カー非線形性、スピン軌道結合、量子ゆらぎなどを含む、多次元自己捕獲状態を安定化させ得るさまざまな機構について概説する。
3D metamaterials
doi: 10.1038/s42254-018-0018-y
メタマテリアルは、オーダーメードの構成要素からなる合理的に設計された複合物であり、その構成要素を超える効果的な媒質特性をもたらす。本Reviewでは、電磁気学、光学、音響学、力学、輸送の各分野においてかつてない物理的特性を示す3Dメタマテリアルが概説されている。
Concepts in the design and engineering of single-molecule electronic devices
doi: 10.1038/s42254-019-0022-x
本Reviewでは、高信頼性分子接合の作製やその固有特性の調整のために開発された指針が、電極、界面工学、分子工学の各観点から検討されている。分子設計を通して分子接合において実証されたさまざまな機能が、この分野の未解決課題とともに論じられている。
van der Waals heterostructures combining graphene and hexagonal boron nitride
doi: 10.1038/s42254-018-0016-0
本Reviewでは、グラフェンと六方晶窒化ホウ素からなるファンデルワールスヘテロ構造体において発現する新しい物理現象(整数および分数量子ホール効果、新規プラズモン状態、創発的モアレ超格子効果など)が概説されている。
Magnetic topological insulators
doi: 10.1038/s42254-018-0011-5
磁性トポロジカル絶縁体によって、磁性とトポロジカル電子状態の相互作用の研究が可能になる。本Reviewでは、磁性トポロジカル絶縁体の基本概念とエキゾチックなトポロジカル現象の実験的実現における進展がまとめられている。
Attosecond imaging of molecules using high harmonic spectroscopy
doi: 10.1038/s42254-018-0015-1
高次高調波分光法は、気相分子における価電子軌道の波動関数の詳細を明らかにするフェムト秒レーザー技術である。この方法によって、分子軌道の撮像と、フェムト秒分解能での単分子化学反応の追跡が可能になる。
Complex lasers with controllable coherence
doi: 10.1038/s42254-018-0010-6
空間コヒーレンスの高いレーザー照射は、スペックル雑音などの不都合なアーチファクトが生じる可能性があるため、必ずしも好ましいとは限らない。本Technical Reviewでは、従来とは異なり、本質的に空間コヒーレンスが低いレーザーや空間コヒーレンスを調節できるレーザーについて説明している。
Ultrastrong coupling between light and matter
doi: 10.1038/s42254-018-0006-2
系の裸の遷移周波数に匹敵する強さの光–物質結合は、超強結合と呼ばれている。本Reviewでは、この10年間における実験による超強結合の実現方法、この領域において予測される新しい現象、可能になる応用について概説している。
The statistical physics of real-world networks
doi: 10.1038/s42254-018-0002-6
本Reviewでは、複雑ネットワークの統計物理学の進歩について説明するとともに、理論的なネットワークモデリングの最先端と、現実世界のパターン検出システムやネットワーク再構成システムへの応用について述べている。
Entanglement certification from theory to experiment
doi: 10.1038/s42254-018-0003-5
エンタングルメントは、古典物理学と量子物理学を区別する決定的な特徴と考えられることが多く、多くの量子技術の基礎となっている。本Reviewでは、物理系がエンタングルメントを特徴とすることを決定的に証明するという難題に関する最近の進展について論じるとともに、検出方法と証明方法を概説している。
Taking census of physics
doi: 10.1038/s42254-018-0005-3
物理学者の数とキャリアパスを分析することによって、物理学の各領域の状況の変化が明らかになり、さまざまな領域間のつながりや大規模共同研究の影響が浮き彫りになっている。
Atomic force microscopy-based mechanobiology
doi: 10.1038/s42254-018-0001-7
メカノバイオロジーは、生物系が機械的刺激にどのように応答するか記述する。今回のReview では、原子間力顕微鏡に基づく方法と、それと相補的な手法を組み合わせて適用して、複雑な生物系の形態、機械的性質、機械的刺激に対する機能的応答を評価する際の基本原理、利点、限界を概観している。