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糸状菌Penicillium chrysogenumのゲノム配列解読および解析

Nature Biotechnology 26, 10 doi: 10.1038/nbt.1498

糸状菌Penicillium chrysogenumによるペニシリンの工業生産は、微生物株の改良に向けた多大な努力の成果である。ペニシリン合成に関する知見を深めるため、我々は、P. chrysogenum Wisconsin54-1255株のゲノム配列(32.19 Mb)を解読し、ペニシリン産生の重要な段階を担う遺伝子を数多く同定した。また、同株とペニシリンG高産生株とを側鎖前駆体であるフェニル酪酸の存在下および非存在下で培養し、DNAマイクロアレイ法でトランスクリプトームを比較した。ペニシリン生合成の前駆体であるバリン、システイン、α-アミノアジピン酸の生合成に関与する遺伝子は、ミクロボディタンパク質をコードする遺伝子とともに、高産生株で転写が亢進していた。一部の遺伝子産物は、β-ラクタム産生を直接制御していることがわかった。ペニシリンおよび中間体に関係する重要な細胞輸送過程には、分子レベルで解析されていないものが多い。輸送体をコードすることが予測される遺伝子は、ペニシリンGの産生を促進する条件で転写が活性化される遺伝子にきわめて多く認められたことから、ゲノミクスによる代謝工学で将来的に利用される可能性がある。

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