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根から葉へと乾燥を知らせる物質の正体
植物は、自然界のさまざまな環境の変化にさらされながら生長していかなければならない。そのためには、環境の変化を常にモニターし、その情報を植物体の各器官に的確に伝える仕組みが必要だ。理化学研究所環境資源科学研究センターの高橋史憲研究員と篠崎一雄センター長らは、根の細胞が乾燥を察知するとペプチドを合成して分泌し、それが維管束を移動して葉に伝わると、植物体は乾燥に備えて準備するようになることを明らかにし、Nature で報告した。
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シナプス強度を制御する分子機序を解明
脳機能を支える神経回路は、神経細胞同士がシナプスというつなぎ目を介して複雑につながることで作られる。脳の情報や指令は、神経細胞内においては電気的に伝達されるが、シナプスでは神経伝達物質を内包した小胞を介して化学的に伝達される。しかし、伝達の強度を左右する小胞放出の場の数や、場の形成過程などは不明であった。このほど、廣瀬謙造・東京大学大学院医学系研究科教授らは、独自に開発した高感度のイメージング技術に分子の超解像可視化技術を組み合わせることで、場の形成に関わる分子実体の解明に成功した。
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スピンを活用し、ひずみ方向検知に初成功 ― 柔らかいセンサー開発に道
磁性体(磁石)が変形すると磁化方向が変わる性質を利用して、変形の方向を検出できる柔らかいひずみセンサーの動作実証に、東京大学大学院工学系研究科准教授の千葉大地さん、同研究科博士課程2年の太田進也さん、株式会社村田製作所シニアプリンシパルリサーチャーの安藤陽さんの3人が世界で初めて成功し、新創刊のNature Electronics 2月号に発表した。電子の磁気的性質であるスピンを活用する「スピントロニクス」と、折り曲げることができる電子部品を創造する「フレキシブルエレクトロニクス」を融合した新しいデバイス開発に道を開くものだ。3人に研究の背景、今後の方向性などについて聞いた。
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窒素固定 ― 常識破りのメカニズムに迫る
空気中の窒素から、肥料として不可欠なアンモニアを作る「ハーバー=ボッシュ法」は、人類の食料供給を100年以上にわたり支えてきた。ただし、この方法は高温高圧が不可欠であるため、多くのエネルギーと大型プラントが必要となる。このため、消費エネルギーが低く小型の設備かつオンサイトで可能な窒素固定法の開発は、現在最も社会的要請の高い研究の1つだ。このほど、ランタン・コバルト・ケイ素の3元素から成る金属間化合物(LaCoSi)が、400℃、常圧という従来よりはるかに温和な条件下で窒素固定触媒として働くことが、Nature Catalysis に報告された。その開発の過程について、細野秀雄・東京工業大学教授および多田朋史・同大学准教授に話を聞いた。
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シングルセル解析の新たな計測技術を開発
生命科学の研究方法として、「シングルセル(単一細胞)解析」が大きな注目を浴びている。臓器に含まれる細胞を個別に解析していく研究方法であり、細胞集団を解析して平均値を捉えるこれまでの手法では見逃されてきた新しい細胞種、また、これまでにないレベルでの細胞機能を解明できるようになった。この分野で新技術の研究・開発を進める二階堂愛・理化学研究所ユニットリーダーと、今回の完全長RNAの解析技術「RamDA-seq」の開発を担った林 哲太郎研究員たちに話を伺った。
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脳のアルツハイマー病変を血液で検出可能に!
日本には450万人を超える認知症患者がいて、その7割弱がアルツハイマー病だとされる。他国も同様で、製薬会社はこぞってアルツハイマー病の治療薬やワクチンを開発しているが、失敗が相次いでいる。敗因の1つに「投与するタイミングが遅すぎる」可能性が示唆されている。このほど、国立長寿医療研究センターと島津製作所が中心となり、アルツハイマー病の病変(脳内アミロイドβ蓄積)の有無をごく初期から検出できる血液バイオマーカーを開発した。
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ピラミッドの巨大新空間を科学的に発見
世界最大であるクフ王のピラミッド。森島邦博 特任助教が率いる名古屋大学の研究チームは、宇宙線のミューオンを利用して、まるでレントゲン写真を撮るように、ピラミッドを傷つけることなく、その内部構造を可視化することに成功した。するとそこには、謎の巨大空間が出現し、考古学者たちを驚かせている。
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後肢発生研究で見えてきた、胴の長さの進化
地球上には、さまざまな胴の長さの脊椎動物がいる。最も短いものの代表例はカエルで、背骨の数は8つほど。最長はニシキヘビ(ヘビ亜目)などで、背骨は200以上あるという。名古屋大学大学院理学研究科の鈴木孝幸講師、黒岩厚教授らは、長年、後ろ足がいつ、どこに、どのような遺伝子の働きで作られるかを調べてきた。このほど、後ろ足を含む体の後方部分の構造を作る場所が、ただ1つの遺伝子で決定されることを突き止め、この遺伝子の発現タイミングが、後ろ足の位置、つまり胴の長さの多様性を生み出していることを見いだした。
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FANTOM5データを誰でも活用できる形に
理化学研究所主宰の哺乳類ゲノムの国際研究コンソーシアム、FANTOM。現在の第5期FANTOM5では、500種類以上の細胞(臓器由来含む)ついて、ゲノムから転写されたRNAが網羅的に測定・解析された。FANTOM5データの多くはすでに公開済みだが、データ取得プロセスや試料の品質、データ処理などを詳しく記述した報告は、今回のScientific Data が初めてだ。同時に、FANTOM5などの遺伝子発現データを簡単に検索・閲覧できるウェブツール「RefEx」に関する論文も同誌に報告。公開データの活用を促すこれらの研究に尽力した4人のデータサイエンティストに話を伺った。
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ゲノム刷込みを維持し高効率にES細胞作製
多くの研究室でES細胞を容易に樹立できるようになったのは、培養成分の改良によるところが大きい。2008年には血清の代わりにMEK1/2阻害剤とGsk3β阻害剤を添加する画期的な手法が登場し、均一で質の良いES細胞を高効率で樹立できるようになった。ところが、この手法で樹立したES細胞では、親から受け継いだはずのゲノムインプリンティングが消去されていて、厳密なレベルでの個体発生能を持たないことを、山田泰広・京都大学iPS細胞研究所(CiRA)教授らは突き止めた。そのうえで、ゲノムインプリンティングを維持したES細胞を高効率に樹立する方法も見いだした。
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制御性T細胞研究とともに歩む
異物を攻撃して体を守る働きをする免疫反応には、それを促進する役割と抑制する役割を果たす仕組みが備わっている。抑制する働きの1つを担う制御性T細胞の存在を提唱し、それを証明した坂口志文・大阪大学特任教授には、ガードナー国際賞をはじめとするたくさんの賞が与えられた。現在、制御性T細胞のコントロールを目指して、ゲノムやエピゲノムレベルでの研究を進めている。
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加熱しても冷却してもできる超分子ポリマー
プラスチックなどポリマーは温度が上昇するとバラバラになるという常識を覆し、加熱すると結合(重合)する「超分子ポリマー」の開発に、理化学研究所の宮島大吾上級研究員、相田卓三グループディレクターらの研究チームが成功した。分散した状態で冷却しても同様の重合が見られ、新たな材料開発に道を開くものとして注目される。6月26日付Nature Chemistry電子版に掲載された1。開発の背景、今後の研究の方向性などについて、研究を中心となって進めた宮島上級研究員に聞いた。
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食虫植物の進化がゲノム解読から明らかに
植物なのに虫を捕らえて食べる「食虫植物」。この不思議な生き物は、一体どのように進化してきたのだろう。このほど、長谷部光泰・自然科学研究機構基礎生物学研究所教授と、当時大学院生として長谷部研に所属していた福島健児さん(現 コロラド大学研究員)らは、食虫植物フクロユキノシタのゲノム配列を明らかにし、さらに捕らえた虫を分解する消化酵素の進化について解明して、Nature Ecology & Evolution 3月号に発表した。食虫植物の進化の謎解きに挑むお二人に聞いた。
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人工硝子体として長期埋め込み可能なゲル
大量の水を含み弾力性に富んだハイドロゲルは生体軟組織と似ており、医療材料として注目されている。一方で、膨潤、白濁、炎症などを引き起こすといった問題も抱えており、広く実用化されているものはあまりない。このほど、酒井崇匡(さかい・たかまさ)・東京大学大学院准教授らは、膨潤や白濁の問題をクリアし、液体からゲル化までの時間も制御できる、注入可能なハイドロゲルを開発。実際にこのハイドロゲルをウサギに導入し、長期の埋め込みが可能な人工硝子体としての安全性を確認した。
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マクロファージの概念を変える発見
免疫反応におけるゴミ処理係として知られるマクロファージが、近年、大いに注目を集めている。マクロファージは1種類の細胞ではなく、さまざまな機能を持って分化し、いろいろな疾患に特異的に働く多様なマクロファージが複数種存在するというのだ。一連の研究を牽引するのは、大阪大学審良静男研究室の佐藤荘助教である。
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月に届く地球の風
地球に一番近く、空を見上げればそこにある月。このなじみ深い天体を日本の探査機「かぐや」が調査したことは、よく知られている。このほど、地球の高層大気圏から流失したO+イオンが月にまで届いていることが、大阪大学・名古屋大学・JAXA(宇宙航空研究開発機構)の共同研究により突き止められ、 2017年創刊のNature Astronomy 2月号に発表された。検出されたO+は高いエネルギーを持ち、月表面の数十nmまで貫入することができる。このことは、太古から現在に至るまで、月が常に地球由来の物質にさらされてきたことを明らかにした初めての成果である。研究の中心となった、大阪大学大学院理学研究科の寺田健太郎さんとJAXA宇宙科学研究所の横田勝一郎さんにお話を伺った。
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恐怖記憶を消去するニューロフィードバック技術を開発
人間の脳が恐怖体験を記憶しやすいのは、危ないものに二度と近づかないために意味があるからだといわれる。しかし、それがトラウマ(心的外傷)となって日常生活に支障をきたすこともあり厄介だ。このほど、最新の情報学的技術を脳科学に応用して恐怖記憶を消去する新技術が、新創刊のNature Human Behaviourに報告された。従来の恐怖記憶の緩和治療に伴いがちなストレスを大きく低減できる画期的な方法と期待される。論文著者である情報通信研究機構(NICT) 脳情報通信融合研究センター(CiNet)および株式会社国際電気通信基礎技術研究所(ATR) 脳情報通信総合研究所に所属するお三方に話を伺った。
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360度曲がる携帯型テラヘルツ波スキャナー
雲の分布や海水温のモニタリング、セキュリティー検査、がんの画像診断などのさまざまな用途で、「見えないものを見る」非接触・非破壊のイメージング技術が使われている。その際に使われる電磁波の波長はさまざまだが、30〜3000µmのテラヘルツ波は、得られる画像の解像度が低い、装置が大がかり、といった理由で実用化が遅れていた。今回、河野行雄・東京工業大学科学技術創成研究院准教授らは、カーボンナノチューブでできたフィルムを利用することで、360度曲げることができ、携帯も可能な小型のテラヘルツスキャナーの開発に成功した。
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自閉スペクトラム症研究から「個性」の探求へ
脳や神経系がどのように発生・発達するか、その仕組みを研究してきた大隅典子・東北大学大学院医学系研究科教授。近年は、自閉スペクトラム症の研究にも取り組んできた。2016年7月、「個性」を創り育む脳の仕組みに挑むため、脳科学に加え、人文・社会系、理工系分野の力を集結した大規模プロジェクトを立ち上げた。科学で「個性」に正面から取り組む初めてのプロジェクトである。
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iPS細胞を用いた新アプローチで心機能改善
iPS細胞の臨床応用に向けた研究が加速している。例えば、心筋細胞に分化誘導した上で直径数cm、厚さ0.1mmほどのシートを作製し、重篤な心不全患者の心臓に貼り付ける治療は2016年度中にも臨床試験が始まるとされる。そうした中、信州大学バイオメディカル研究所の柴祐司准教授らは、サルのiPS細胞を心筋細胞に分化させ、単一細胞のまま別個体のサルの心臓に移植する実験を世界で初めて行い、心機能改善の効果が得られることを実証した。