10カ月間飛び続けられるアマツバメ
ヨーロッパアマツバメ(Apus apus)が、アメリア・イアハート(1932年に女性初の大西洋単独横断飛行に成功した飛行家)やチャールズ・リンドバーグ(1927年にニューヨーク・パリ単独無着陸飛行に初めて成功した飛行家)でさえも羨むような連続飛行記録を打ち出した。今回、ルンド大学(スウェーデン)の生物学者Anders Hedenströmらが、この鳥の北欧-中央アフリカ間の渡りの観察に成功し、中には10カ月間一度も羽根を休めることなく空を飛び続ける猛者がいることを、2016年10月27日にCurrent Biologyに発表したのだ1。
鳥類学者や野鳥観察家たちは1960年代から、ヨーロッパアマツバメが驚異的な長距離飛行能力を持つのではないかと考えていた。というのも、人々はこの鳥たちがリベリアなどの空を埋め尽くすのを見てきたが、その近くに羽根を休められそうな場所はなかったからだ。
そこで研究チームは、体重約40gのこの鳥に小型のデータ記録装置と加速度計を組み合わせたタグを取り付け、毎年の渡りの飛行経路と飛翔行動を記録した。ヨーロッパアマツバメの1シーズンはスウェーデンの繁殖地で始まり、同じ場所で終わる。研究チームは13羽を追跡し、一部の個体は複数のシーズンにわたって追跡した。
その結果、一部の鳥たちは冬の夜に数回、短時間だけ着地したものの、渡りの間の99%の時間は空を飛んでいたことが分かった。10カ月間一度も着地しなかったものも3羽いた。
スイス鳥類学研究所(ゼンパッハ)のFelix Liechtiは、「ヨーロッパアマツバメは、長い期間飛行する能力を持っている可能性があると長い間考えられていましたが、今回、ついに裏付けが得られたのです」と言う。
長距離飛行に適した体
長期間飛行できる鳥は他にもいる。 シロハラアマツバメ(Tachymarptis melba)は、半年間の渡りの間に一度も休まない2。エクアドル沖のオオグンカンドリ(Fregata minor)はアマツバメよりはるかに大きい鳥だが、2カ月間一度も着陸することなく、海で餌を取りながら飛び続けることができる。さらに彼らは、飛びながら眠ることもできる3。けれども、ヨーロッパアマツバメの記録は群を抜いているといえる。
Hedenströmは、「ヨーロッパアマツバメの体は非常に効率よく飛べるように進化しています。胴体は流線型で、翼は細長く、少ないコストで揚力を得ることができます」と言う。食事をするのも飛びながらで、シロアリの羽アリなどの空を飛ぶ昆虫や糸を出して空中を漂うクモなどを捕まえて食べている。
Hedenströmによると、ヨーロッパアマツバメのライフスタイルはエネルギー消費が少ないようになっているが、飛びながら眠っているかどうかは分からないという。マックス・プランク鳥類学研究所(ドイツ・ゼーヴィーゼン)の神経生物学者Niels Rattenborgは、「この睡眠時間では、ほとんどの動物にとって睡眠不足どころか極めて苦痛です」と言う。「けれどもこの鳥たちは、進化の過程で、非常に短い眠りで足りるようにする技を編み出したのです」。
追跡装置の進化がなければ、この小さな鳥たちの秘密は依然として謎のままだっただろう。マサチューセッツ大学アマースト校(米国)の生態学者Bill Delucaは、「追跡装置がどんどん小さくなるにつれ、より小さな種を調べて、驚異的な渡りの能力を解明できるようになるでしょう」と期待する。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2017.170104
原文
Record-breaking common swifts fly for 10 months without landing- Nature (2016-10-27) | DOI: 10.1038/nature.2016.20873
- Ramin Skibba
参考文献
- Hedenström, A. et al. Curr. Bio. (2016).
- Liechti, F. et al. Nature Commun. 4, 2554 (2013).
- Rattenborg, N. et al. Nature Commun. 7, 12468 (2016).