Editorial

査読者に感謝の気持ちを示したい

査読者の貢献は、表に出にくいものである。 Credit: iStock/Getty

査読は、研究の質と公正を確保する上で重要だが、きつい仕事であり、時間もかかり、報われない仕事と思われることが多い。

Nature およびNature 関連誌は、査読者の貴重な貢献の顕彰をさらに充実させ、査読過程の透明性をさらに高めたいと考えている。そこでNature は、2016年に査読者の顕彰を試験的に実施した。論文が査読されて受理されると、著者は、査読者の同意を得た上で、論文への貢献に対して査読者に感謝の意を表するという選択肢が与えられた。一方、同意を与えた査読者は、その氏名を論文に記載するかどうかを選択でき、著者の同意があれば、査読者の氏名が記載される。

それから3年近くが経ち、評価を行うべき時が来た。これまでのところ、Nature に掲載された論文の著者の91%と査読者の55%がこの試験的プログラムに参加した(なお、査読者の26%が不参加の意思を示し、19%が無回答だった)。そして、約3700人のNature 掲載論文の査読者が、公にその功績が認められることを選択し、Nature 掲載論文の約80%で、1人以上の査読者の氏名が表示された。

Nature の分析では、生命科学系と物理科学系の研究者、男女の著者および査読者のそれぞれの間で、結果に大きな差はなかった。また、氏名の明示を望んだ査読者の割合は、キャリアの初期、中期、後期で差はなかった。

この肯定的な反応に基づき、Nature レビュー誌16誌でも査読者顕彰制度の試験的実施を2017年9月に始め、これまでに査読者の57%が氏名の明示を選択した。またNature 関連誌7誌(Nature AstronomyNature Climate ChangeNature NanotechnologyNature NeuroscienceNature PhysicsNature PlantsNature Protocols)でも、2019年1月から同制度を実施している。こうした動きは、査読過程をオープンにしようとする他の動きに立脚している。この点で先駆的な役割を果たしたのがBMCシリーズ各誌で、1999年以降、医学系学術誌で査読者の氏名を公表してきた。また、Nature Communications は3年以上にわたり匿名の査読者レポートを掲載しており、2018年11月に査読者顕彰制度を開始している。

ただ、誌上掲載される論文に査読者の氏名を表示することについては、全員が賛成しているわけではない。Nature が試験的に導入した査読者顕彰制度に参加しなかった査読者と、2017年に実施した査読者を対象とした調査の結果からは、いくつかの懸念が浮き彫りになった。この制度が不正利用されるリスクが高まる恐れがあり、もしかすると「私はあなたに貸しがある」という連鎖反応を引き起こし、例えば、査読者が上の地位にある者を怒らせないように、あるいは報復を受ける可能性を回避しようと、報告書を穏やかな内容にする可能性があると主張する者もいる。これらの研究者の多くは、査読の秘密は常に完全に守られるべきだと考えている。現時点で査読者顕彰制度は普遍的に認められていないため、Nature ブランド誌では、査読者を明記するかどうかは当事者たちの選択に委ねられている。そして、この他にも功績を認められるべき人々がいる。最終的に不採択となった論文の査読者も、受理された論文の査読者と同様に重要な貢献をしているし、責任査読者を助ける多くの同僚(多くの場合は査読チームの若手メンバー)も、その貢献を認められる必要がある。

これほど多くの査読者が氏名の明示を選択したことは、査読に対する姿勢の変化を反映している。これほど多くのNature の査読者の貢献を公に認め、コミュニティーの意見を聞くことができてよかったと思う。今後、より多くの弊社の出版誌で査読者の顕彰を実施したいと考えており、査読過程のさらなる改善と発展を期待したい。

翻訳:菊川要

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 7

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190738

原文

Three-year trial shows support for recognizing peer reviewers
  • Nature (2019-04-16) | DOI: 10.1038/d41586-019-01162-1