プレートテクトニクスの発展に堆積物が貢献
プレートテクトニクスと呼ばれる惑星進化の形態を示す太陽系の惑星は、地球だけだ。この様式の惑星冷却では、対流するマントルが、リソスフェア(岩石圏)と呼ばれる、地球表層の比較的固い殻の部分を通じて熱を伝える。この殻は、拡大中心(2つの離れていくプレートの境界)で作られ、沈み込み帯(サブダクションゾーン;1つのプレートがもう1つのプレートの下に沈み込んでいる領域)でマントルに再利用される。地球の惑星冷却はどうしてこの様式で起こっているのか、プレートテクトニクスの現在の時代はいつ始まったのかに関しては、今も議論が続いている1-3。ドイツ地球科学研究センター地球力学モデリング部門(ポツダム)のStephan V. Sobolevとメリーランド大学地質学科(米国カレッジパーク)のMichael Brownは今回、これらの疑問に関する答えをNature 2019年6月6日号52ページで提案した4。彼らの仮説は、地球や他の惑星の内部ダイナミクスと表面プロセス(気候と大気のプロセスを含む)の関係を理解するための基礎になる可能性がある。
沈み込みは、地球のプレート運動を引き起こす主要な現象の1つであり、このため、地球の熱損失を引き起こす主要な現象の1つでもある。プレートが速く動けば冷却は強まる。対照的に、もしもプレートが遅くなるか、止まったら、熱はマントルの中に閉じ込められ、冷却は弱まる。沈み込みが進む速度は、少数の因子に依存する5,6。これらの因子は、沈み込むプレートの材料強度や、沈み込むプレートと上になるプレートの境界の強度を含む(図1)。
図1 堆積物循環と初期の地球のダイナミクス
地球表面の大部分が氷に覆われた全球的氷期の後、大陸の山脈は強い風化と浸食にさらされた。SobolevとBrownは、こうしたプロセスで作られた堆積物が沈み込み帯(1つのプレートがもう1つのプレートの下に沈み込んでいる領域)に供給されたという仮説を立てた4。この図に示された沈み込み帯の場合、海洋プレートと大陸プレートからなる。SobolevとBrownは、堆積物がこれらのプレートの境界を滑らかにし、プレートテクトニクスの現在の時代の開始を促したと提案した。
プレート境界の強度は、沈み込んでいる材料の組成に特に左右されやすいパラメーターだ7,8。例えば、海洋の地殻を特徴付ける、マグネシウムや鉄に富む火成岩(溶岩やマグマの凝固で形成された岩石)は乾いて強く、沈み込む速度は遅くなる8。対照的に、主に大陸の浸食でもたらされ、海洋地殻の上に堆積した堆積物の被覆は湿って弱く、沈み込みは加速される。これは堆積物潤滑と呼ばれるプロセスだ。このプロセスは、現代のいくつかの沈み込み帯のダイナミクスに影響した可能性があり、そうした沈み込み帯には、アンデス山脈7,9やヒマラヤ山脈8に関係する沈み込み帯がある。
SobolevとBrownは、初期の地球(約45億~20億年前)のダイナミクスにおける堆積物潤滑の潜在的な役割を調べた。彼らは、地質記録でよく確立されている地球規模の氷期(地球表面の大部分が氷に覆われた期間)を検討した。彼らは、これらの氷期は、新興の大陸の強い風化と浸食をもたらしたと指摘する。さらに彼らは、風化と浸食による大陸縁辺での堆積物の供給は、沈み込むプレートと上になるプレートの境界を滑らかにする働きをし、このため、地球のプレートテクトニクスの現在の時代の開始を促したという仮説を立てた。SobolevとBrownはこの仮説を立証するため、沈み込み主導プレートテクトニクスの活動と、大陸由来の堆積物の海洋への供給との相関を、時間を追って探した。
SobolevとBrownは、沈み込みの活発さの指標として、造山帯の累積長さ(大陸衝突の頻度を反映すると彼らは解釈した)を記述するデータセットや、「対になった変成帯」の発生を記述するデータセットなど、いくつかの既存のデータセットで時間変動を比較した。対になった変成帯は、同様の年代ではあるが対照的な鉱物集合体である変成岩(既存の岩が極端な熱や圧力を受けて形成された岩)の平行な細長い分布からなる。対になった変成帯は、非対称な沈み込みの証拠だと長く考えられてきた10。彼らは、海洋への堆積物供給の指標として、地殻材料(堆積物を代表する)とマントル材料が、海水と火山岩に及ぼす相対的な地球化学的影響を調べた。
SobolevとBrownの研究の価値は、地球規模で収集されたデータセットを結び付けて統一された仮説を作り上げたことだ。これらのデータセットのそれぞれは、本来的に複雑で、その解釈について意見は分かれている。しかし、結合されたデータセットは、地質年代において3つのはっきりしたピークを示すようだ。これらのピークの1つは、海面上への大陸の出現と同時期だ。また、3つのピークは全て、地球規模の氷期とおおむね同時に起こっているようだ。各ピークの後、超大陸と呼ばれる大陸塊の集合が起こったらしい。おそらくプレート運動の活発化によって駆動されたのだろう。
SobolevとBrownによって提案された概念は非常に興味深いが、それを検証するためにはさらに多くの研究が必要だ。今後の研究の重要な課題は、堆積物潤滑と山脈形成の間のフィードバックを定量化することだ。例えば、上になるプレートで隆起した地形が発達すると、プレート境界の摩擦抵抗を増やし、プレート速度を遅くする11,12。しかし、同時に、山脈の成長は表面の浸食を引き起こし、堆積物供給を増やす。さらに、火山活動と沈み込み帯での炭素の埋没は地球全体の気候に影響し、浸食にも影響する。特定のタイムスケールでこれらのプロセスのどれが支配的なのか、また、プロセス同士がどのように結び付いているのかはよく分かっていない。
堆積物の流量と収支(入力と出力の差)、大陸の山脈から沈み込み帯の海溝への堆積物の地球化学的トレーサーを調べることも価値があるだろう。そうした研究では、初期の地球のリソスフェアと気候が現在とどのように異なるかを考慮することが必要だろう。地質学の観点からは、沈み込む岩の物理的特徴の変化が境界の性質にもたらす影響を定量化するために、浅い(摩擦のある)プレート境界と深い(粘性のある)プレート境界の両方について、自然の岩と実験による材料強度のさらなる情報が必要だ。
翻訳:新庄直樹
Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9
DOI: 10.1038/ndigest.2019.190934
原文
Role of major erosion events in Earth’s dynamics- Nature (2019-06-06) | DOI: 10.1038/d41586-019-01711-8
- Whitney Behr
- Whitney Behrは、チューリヒ工科大学地球科学科地質学研究所(スイス)に所属。
参考文献
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