都市の食料不足を供給の多様化で防ぐ
世界の人口の半分以上が都市部に住んでおり、この割合は2050年までに68%に増加しそうだ1。都市住民は、食料を生産、調達、準備、配送するサプライチェーン(供給連鎖)に依存しており、人間の行動の変化と自然のプロセスの変化によるサプライチェーンの途絶と食料不足の可能性にさらされている。食料供給システムのレジリエンス(強靱性)を改善する必要があるという認識が高まっているが、研究面でも政策面でも、都市を食料不足からどうやって守るのがベストであるかは未解決の問題のままだ。ペンシルベニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)のMichael Gomezらは、農産物の都市への流れがその都市の取引相手の多様性にどう依存しているかを評価し、Nature 2021年7月8日号250ページで報告した2。Gomezらは、工学の考え方(インフラを洪水から守るために使われる考え方など)を応用し、食料不足から都市を守ることができる食料供給システムの設計に関する知見を与えた。
科学者らと産業界は数十年にわたって、食料不足の危険性を政府と消費者に警告し続けてきた。食料不足を引き起こし得る原因には、干ばつや熱波、害虫と病気の発生、金融不況、貿易政策など、さまざまなものがある3。直近では、COVID-19パンデミックにより、都市の食料供給がいかにもろいかを研究者も一般社会も再考させられた(図1)。
食料不足の危険性については多くの解決策が提案されていて、気候変動に抵抗力のある農業経営から、地域内食料供給システムや自給自足を促進することにまで及ぶ4。注目を集めている1つの解決策は、農産物、農場、食料を調達して配送する企業、それらの数と多様性を増やすことだ。食料サプライチェーンが多様であれば、食料不足から都市を守れる可能性がある。ちょうど、金融では、株の多様なポートフォリオが投資のリスクを限定し、生態学では、種の多様な混合が生態系の機能を維持するのと同じようにだ。
Gomezらは、米国の284の都市と45の非都市地理的地域について、さまざまな農産物の生産地と配送先に関するデータを使用した。彼らは、各都市について、米国内の食料供給システム、つまり、その都市に穀物、肉、生きた動物、動物の飼料を供給する全ての地理的地域を見つけ出した。そして彼らは、4年間のうちに食料ショックと呼ばれる突然の食料供給途絶に直面した都市の数を決定した(食料ショックの確率を計算した)。食料ショックの判定は、各都市について、4年間のうちの1年間で、各食料カテゴリーの供給量の最小値が平均値よりもあるパーセンテージ小さかった場合とした。判定のしきい値になるパーセンテージは3〜15%まで変化させた。
次に、Gomezらはこのデータを、各都市とその都市の供給ネットワーク内の地理的地域との、物理的な距離や気候の違いなどの地理的類似性の簡単な指標と組み合わせた。彼らはこの情報を基に、多様なサプライチェーンを持つ都市のグループはサプライチェーンの多様性の低い都市グループよりも食料ショックを和らげることができる、という考えを検証した。実際、その都市自身やお互いと異なっている供給者から食料の供給を受けている都市は、サプライチェーンパートナーの多様性が小さい都市よりも、食料ショックに直面する可能性は低かった。そうしたサプライチェーンのメリットは、地域内の食料供給システムだけでは得られないだろう。
Gomezらはそれから、工学の設計概念を検討した。工学では、与えられた頻度と規模のショック(極端な洪水など)に耐えるようにインフラを計画する。Gomezらは大胆な外挿を行った。つまり彼らは、現在のサプライチェーンの多様性を基に、米国のさまざまな都市が直面するだろう食料ショックの大きさを見積もった。彼らは、100年に一度起こるものなど、稀な食料ショックは、都市によって約22~32%の食料供給量の減少を引き起こすと考えられることを見いだした。
Gomezらのモデルで分かったもう1つの発見は、サプライチェーンにある程度の多様性があれば、極端に大きな食料ショックの確率を減らす効果があるということだ。Gomezらは、自分たちの分析を食料の複数のカテゴリーで同時に起こるショックにも応用した。その結果、彼らは、単一カテゴリーのショックと同じような結果を得た。サプライチェーンの多様性は、こうしたさらに稀な出来事についても緩和する効果をもたらしたのだ。
Gomezらの研究は、レジリエンスのある食料供給システムを作る方法の貴重なヒントになるが、指摘しておくべきこともいくつかある。第一に、彼らは、各都市について4年間のデータだけを使っており、これは、各都市での食料ショックの分布を記述する際に問題になる。時系列が限定されると、消費者と小売業者にとっての食料供給の基準となる変動(つまり、通常の状態と見なされるもの)を定義することが難しくなる。また、多様化したサプライチェーンが、通常の条件の下で、極端な出来事が起こった年と比較してどの程度、食料不足を緩和するのか、そして食料調達方針を変えるほど正味のメリットは大きいのかを把握することが難しくなる。
第二に、Gomezらが使った食料流量データは、各年の実際の流れを表しておらず、年間生産量を2012年に観測された流量に比例して単純に配分したものだ5。だから、彼らの分析は、極端な出来事の発生によるルート変更やその他の社会的反応を反映しておらず、考慮に入れていない。食料ショックが起こった年やその後の社会のそうした反応は、供給ネットワークの至るところで食料の流れを変えることになるはずだ。
第三に、Gomezらは、検討された4年間を超える場合や、米国以外での場合の彼らのモデルの予測力を検証しなかった。この検証がないことは、彼らの成果を実際に応用する際に最も大きな制限になるかもしれない。その1つの理由は、食料供給の安定性は、それ自体が動的であり、消費された食料の量と種類が増加するとともに変化し、また、生産技術とともにも変化することだ。観察された現象と一般的パターンは、他の都市や地理的地域でも有効かもしれないが、Gomezらの設計提案が、彼らの主張する程度まで将来の食料ショックを緩和するかどうかを証明するデータや分析は存在しない。
都市の食料供給システムを仕様に合わせて設計することは、100年壊れない橋やダムを設計するほどには簡単ではない。都市の食料不足と食料安全保障に関し、世界に広まっている懸念は、中所得国や低所得国の住民に関する懸念、特に輸入に頼る国の住民に関する懸念だ6。理論的には、都市住民が今後大きく増加し始めるとき、食料サプライチェーンの多様性はこうした国の住民を守る効果があるだろう。特にアフリカにおいて効果があるはずだ。しかし、そうした国々はおそらく、今回提案されたモデルでは正確に記述できないだろう。さらに、こうした国々は、米国で可能な政策上の選択肢や能力と比べ、多様なサプライチェーンを作るためのさまざまな政策上の選択肢と能力を持っている。それでもGomezらの研究は、多様なサプライチェーンを作ることが、食料不足から都市住民を守るために極めて重要な仕組みになるという、タイムリーで清新な助言を与えた。
翻訳:新庄直樹
Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10
DOI: 10.1038/ndigest.2021.211038
原文
How to buffer against an urban food shortage- Nature (2021-07-08) | DOI: 10.1038/d41586-021-01758-6
- Zia Mehrabi
- Zia Mehrabiは、コロラド大学ボールダー校(米国)に所属。
参考文献
- United Nations Department of Economic and Social Affairs. World Urbanization Prospects: The 2018 Revision (United Nations, 2019).
- Gomez, M., Mejia, A., Ruddell, B. L. & Rushforth, R. R. Nature 595, 250–254 (2021).
- Lloyd’s. Emerging Risk Report – 2015 (Lloyd’s, 2015).
- UK–US Taskforce on Extreme Weather and Global Food System Resilience. Extreme Weather and Resilience of the Global Food System (UK Global Food Security Programme, 2015).
- Hwang, H-L. et al. Building the FAF4 Regional Database: Data Sources and Estimation Methodologies (US Department of Transportation, 2016).
- Food Security Information Network (FSIN). Global Report on Food Crises 2020 (FSIN, 2020).