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2023年3月号Volume 20 Number 3
脱成長のすすめと科学の役割
世界の経済は成長し続けねばならない。この考えに基づいた行動を続けてきた人類は現在、自然環境破壊と貧富格差拡大、成長できない恐怖に苦しんでいる。そこで注目を集めているのが「脱成長」論である。際限のない消費と生産をやめ、人々のニーズと福祉を満たす経済活動を行えば、安定した豊かさが手に入るというわけだ。しかし実現には、解決すべき課題がたくさんある。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「ガンは花火に驚いてねぐらから遠くに逃げていた」「セルロースの高速道路を高速移動するイオン」「針状レーザー光線で臓器の詳細な3D画像を撮影」「電気釣り針でサメの混獲を減らす」「ガラガラヘビが自身の猛毒から身を守る方法」、他。
News in Japan
2023年日本国際賞は、長距離光通信の功労者と脳研究を光で革新した研究者に
長距離光データ通信を実現した日本の2人の研究者と、神経回路と行動の因果関係を明示する技術を開発した2人の研究者に贈られる。
News in Focus
米国立点火施設がついに核融合点火を達成!
米国立点火施設の研究者たちはついに、投入したエネルギーよりも多くのエネルギーを生成する核融合反応を発生させることに成功した。
オオカミを危険な行動に駆り立てる寄生虫
トキソプラズマ原虫に感染したオオカミは、群れのリーダーとなる確率が非常に高いことが示された。
核廃棄物を月探査に役立てる
ESAは現在、長期の宇宙探査ミッションの動力源として、核廃棄物由来の放射性同位体を用いた電池の開発を進めている。
バイアス減を図るNIH、助成金審査基準見直しへ
助成金申請評価の際に、研究者の専門知識や所属機関は採点対象ではなくなる見込みだ。
200万年前のグリーンランド北部に想像を超えた豊かな生態系
永久凍土から収集された遺伝物質から、グリーンランド北部がかつては緑豊かな森林であり、マストドンなどの巨大哺乳類もいたことが示唆された。
ホモ・エレクトスとみられる良好な頭骨が中国中部で出土
中国中部で、約90万年前の古人類の頭骨が発見された。先史時代にユーラシアの各地に居住していた旧人類の多様な系統樹の全貌がさらに詳細に示されると期待される。
ニセ科学を一掃するための「ペーパーミル」探知システム
現在試験中の「STMインテグリティー・ハブ」は、学術出版社のペーパーミル対策の切り札になると期待される。捏造論文や不正な画像操作を探知するツールも搭載される予定だ。
Comment
脱成長のすすめと科学の役割
先進国は、経済成長を目指すのをやめることができれば、より少ない材料とエネルギーで繁栄を築くことができる。
Japanese Author
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加齢で表皮幹細胞の機能が低下する訳
生体組織の幹細胞は、自己増殖しつつ、分化した細胞を作り出すが、その機能は加齢とともに衰えていき、表皮幹細胞も例外ではない。京都大学医生物学研究所の一條遼助教と豊島文子教授らは、表皮幹細胞の加齢変容を調べる中で、表皮下の真皮が加齢に伴い硬化することを発見。表皮幹細胞がどのように真皮の硬化を感知して加齢変容するかを明らかにしたばかりか、「真皮はなぜ硬化するのか」という問いから、傷の治癒を促す手掛かりをも突き止めた。
Technology
英語が苦手?AIがあるから大丈夫!
近年、英文の文法上の間違いを修正したり、英語でのプレゼンテーションのスタイルやトーンについて助言したりしてくれる便利な機械学習ツールが続々と登場しているが、その利用には注意が必要だ。
News & Views
量子コンピューターの中のホログラフィックワームホール
量子力学と一般相対性理論を融合する試みにおいて重要な概念である、ホログラフィックなワームホールと呼ばれる状態が、量子ビット9個の系を使ってシミュレーションされた。
根が流れに従う仕組み
環境からの刺激により、植物の根の分岐はどう決定されるのだろうか。利用可能な水の量が根の成長を方向付ける仕組みが明らかになり、ホルモンを介した根の成長過程の調節を支える意外な機構が見つかった。
腸内細菌が運動意欲を促進する
腸内細菌が感覚ニューロンを活性化する分子を産生し、運動に関連した脳内の報酬系の神経回路を刺激することが、マウスで発見された。この新しい経路は、長時間の運動に対する意欲に影響を与える。
マラリア原虫が雄になる仕組み
生物はさまざまな戦略を用いて性を決定している。今回、マラリアを引き起こす寄生虫の熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)において、雄特異的な因子が関与する非遺伝的な性決定機構が明らかになった。
細胞移動をコーディネートするのは「uncoordinated」タンパク質
細胞移動への関与がこれまで知られていなかったUnc5受容体とグリピカン3の複合体の特徴が明らかになり、その機能から、発生中のニューロンと転移性のがん細胞は類似した機構で移動するという考えが裏付けられた。
Advances
野生動物のマイクロバイオーム
希少動物の生き残りのカギが、その腸内細菌に隠されている。
Where I Work
Antonella Leone
Antonella Leoneは、 イタリア学術会議 食料生産科学研究所(レッチェ) の生化学研究者。
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