113番元素が確定か?
理化学研究所仁科加速器研究センター(埼玉県)の森田浩介博士をリーダーとする研究チームは、2004年から辛抱強く実験を続け、ついに3個目の113番元素の合成を確認したと報告した1。今回の成功によって113番元素が正式に周期表に加えられる可能性が高くなったと複数の専門家は語っている。もしそうなれば、東アジアで初めて人工元素が発見されたことになり、命名権が日本の研究チームに与えられることになる。
しかし命名権は保証された訳ではない。米国とロシアの研究者も113番元素の研究を熱心に続けており、2003年以降、56個の113番原子を合成したと報告しているからだ。
こうした問題に判断を下すべく、国際純正・応用化学連合(IUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)から選ばれた専門家からなる合同作業部会(JWP)が設けられている。しかし、理研、米ロチーム共に、JWPの承認はまだ受けることができていない。承認過程にお役所仕事的側面が見られるものの、何よりも新しい超重元素合成を証明することがいかに難しいかを物語っている。
膨大な数の原子
2003年以降、理研チームは、ビスマス(Bi:83番元素)標的に亜鉛(Zn:30番元素)原子のビームを衝突させる実験を重ねてきた。目標は、これらの元素の原子核を融合させて、113個の陽子と165個の中性子を持つ原子核を作り出すことだ。
ただし、この核融合反応はきわめて起こりにくい。9年間で通算553日間、ビームが照射され、実に約130,000,000,000,000,000,000個(1.3×1020個)もの亜鉛原子がビスマス標的めがけて発射された。もちろん、研究チームは最初から、合成される確率が非常に低いことは知っていた。森田によれば、1.0×1020回試みて3~6回成功する程度と計算していたという。
ところが早い時期に希望が見え始めた。2004年までに、113番元素と思われる原子を発見できたのだ2。たが、融合が成功したとしても、それを直接確認することはできない。実験では、たくさんの陽子と中性子を原子核内に一斉に詰め込むため、不安定な力の乱れが生じ、数ミリ秒で崩壊してしまうからだ。
原子核の崩壊には2種類あり、1つは「核分裂」、つまり2つの大きめの原子核に分かれるケースである。もう1つは、ヘリウム原子核を放出する「α崩壊」で、これは連鎖的に起こることもある。いずれにせよ、生成した超重元素などのイオンは、シリコン半導体検出器で検出される。これら崩壊生成物のタイミングとエネルギーから、元の物質が何だったのかを推定するが、断定することは普通はできない。断定できるのは、最終崩壊生成物の性質が既知の場合のみである。
理研チームはこれまでに2回、113番元素を観測したと考えているが、いずれもα崩壊が4回続けて起こった後に、分裂反応が起こったケースだった。そして、この分裂反応がドブニウム(Db:105番元素)の同位体で起こったと推定した。しかし、この連鎖α崩壊が113番元素で始まったという確証はなかった。少なくとも「不明」というのが、JWPが出した昨年の技術報告3の結論だった。
ただ、理研の最新結果は、すべての専門家を納得させる力を持つと思われる。今回の113番原子は、過去に観測された既知の反応経路を通って、α粒子を6個続けて放出して崩壊したからである1。
「これはIUPACの全要件を満たすと言っていいでしょう」と、超重元素を研究するリバプール大学(英国)の原子核物理学者Rolf-Dietmar Herzbergは言う。しかし、ほかの研究者たちは、はっきりした表現を避けた。今年1月、ロシアのチームは、2010年11月から2011年3月に行った研究の結果を報告し、その中には最終生成物がドブニウムかどうかを調べた化学分析結果も含まれているからだ4。
JWPは両研究チームの主張を検討するとしており、結局のところ、命名権はJWPの決定に委ねられている。
現在、113番元素には名前がなく、暫定的にウンウントリウムという仮名で 呼ばれている。最初の観測の直後に理研チームが発行した2004年のニュースレターでは、113番元素を「リケニウム(Rikenium)」あるいは「ジャポニウム(Japonium)」と命名する提案がなされていた。IUPACは、機関にちなんだ命名を認めていないので、「ジャポニウム」が最有力候補と言えようか。
「113番元素に関する実験は10月1日に中断し、次の未検出元素、119番と120番の探索に移行する」と森田は言う。119番元素の探索には、すでにダルムシュタット(ドイツ)のヘルムホルツ重イオン研究所(GSI)の研究チームが、5か月を費やしている。新たな追撃が始まるのだ。
翻訳:藤野正美、要約:編集部
Nature ダイジェスト Vol. 9 No. 12
DOI: 10.1038/ndigest.2012.121207
参考文献
- Morita, K. et al. J. Phys. Soc. Jpn 81, 103201 (2012).
- Morita, K. et al. J. Phys. Soc. Jpn 73, 2593–2596 (2004).
- Barber, R. C., Karol, P. J., Nakahara, H., Vardaci, E. & Vogt, E. W. Pure Appl. Chem. 83, 1485–1498(2011).
- Oganessian, Y. T. et al. Phys. Rev. Lett. 108, 022502 (2012).
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