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Nature Video活用事例

コウモリを惑わせる見えない壁

Why bats are blind to smooth surfaces

Researchers have figured out why bats go bump in the night. Echolocation usually allows bats to sense their environments in great detail, but it’s not foolproof. Smooth surfaces act like acoustic mirrors and can appear invisible to bats from certain angles. This sometimes leads to some unfortunate collisions and could explain why bats crash into buildings and other manmade surfaces.

Read more at https://www.nature.com/news/1.22583.

その他の Nature Video

超音波を利用するコウモリ

コウモリには、的確な反響定位の能力がある。これは高い周波数の音波(超音波)を活用して、自分と周囲のものの位置関係を正しく把握する能力だ。現在の哺乳類の種数の中でコウモリはおよそ20パーセントを占めているが、コウモリがこのように多様な進化を実現できたのは、飛ぶことができるという哺乳類では特殊な能力を身につけていると同時に、この反響定位という能力を持っているためだと考えられている。

コウモリは喉から超音波を出し、その反射を聞きとり、物体の存在を把握することで、暗闇の中でも超音波でものを「見る」ことができる。反響定位によってコウモリが得ることのできる情報は、単に「ものがある」ということだけではなく、実に幅広い。超音波を発して戻って来るまでの時間によって物体までの距離を知り、反射してきた超音波の角度から物体の方向を認識する。さらに物体が動いていればドップラー効果によって反射してくる超音波の周波数が変化する。この変化から、コウモリと物体の速度の差を知ることができる。また、物体の大小は反射する超音波の大小に反映されるので、物体そのものの大きさも認識できる。コウモリはこれらの情報を瞬時に判断して、獲物をうまく捕獲したり、障害物を的確に避けたりすることができるのだ。

コウモリには「見えない」もの

しかし残念なことに、ほとんどの滑らかな表面ではこのしくみはうまくはたらかない。表面に凹凸がある物体は、いろいろな方向に音波を反射させ、コウモリは反射する超音波を認識できる。一方、滑らかな表面の物体の場合は、近づいてくるコウモリからの超音波をコウモリとは離れた方向に反射してしまい、コウモリにとっては反射波を認識することができない。つまり、音を鏡のように反射させてしまうため、コウモリには滑らかな面が「見えなくなって」しまう。

このような滑らかな表面をもつ物体として、私たちがすぐに思いつくのは、人工的に造られたビルの壁などであろう。マックス・プランク鳥類学研究所のGreifらの研究チームは、実験室内でコウモリの反響定位のはたらきについて研究した。コウモリが発する超音波の方向と、滑らかな面の物体が垂直になっていれば、超音波が反射して戻ってくるのでコウモリは物体を認識できるが、それ以外の位置関係にあるときはコウモリに物体は「見えない」。実験では怪我を負ったコウモリはいなかったが、自然界では「見えない」物体に激突してしまう恐れがある。

自然界にも滑らかな表面をもつ物体は存在する。静かな水面がそれだ。コウモリは滑らかな水平面で超音波が垂直に返ってきた場合、その面は水面であると認識するらしいことをGreifらは2010年に明らかにした(関連 Nature Video)。実験室の床に表面が滑らかな金属のプレートを置いておくと、コウモリはこのプレートのすぐ上を飛びながら、水を飲むような動作をするようだ。しかし、垂直にそびえ立つ滑らかな表面をもつ構造物は、コウモリを戸惑わせている。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

人間は、およそ20ヘルツから20キロヘルツの音を認識することができる。人間は空気の振動を鼓膜でとらえ、音として認識している。1ヘルツは1秒間あたりの振動数を示し、この範囲より低い振動数や高い振動数の音を人間が認識することはできない。20キロヘルツより高い振動数よりも高い振動数の音波が超音波である。コウモリのように超音波を使って周囲の環境を把握するものにはクジラやイルカなどが知られており、水中で超音波を発している。

イルカは頭部にある噴気孔(呼吸のための空気の出入り口)の下から超音波を発し、メロン器官と呼ばれる脂肪の塊がレンズの役割となって、超音波をビーム状に絞り込んで対象物にあてるという。そんなイルカの耳はほとんど機能しておらず、耳の感度は低いことが明らかになっている。その代わり、イルカは下顎から振動を感じる仕組みを活用しているらしい。人間も頭蓋骨に伝わった振動が直接内耳に伝えられて音を認識する骨導聴力があるが、これと同じ仕組みだ。

生物はそれぞれの種の環境に合わせて感覚器など進化させ、コウモリやイルカのように、人間にはない機能をもつ生物も多く、さまざまな研究の対象となっている。

学生からのコメント

日本では家屋の天井裏などに侵入し、被害が出ているという報告もあり、どちらかというと嫌われているようだ。日本ではあまりよいイメージをもたれないコウモリだが、アフリカやアジアでは貴重な食糧として利用されているとも聞く。地域が違えば食文化も違うことを実感した。(内田 優花)

世界中に分布するコウモリの適応能力の高さに驚きながらも、野生生物が人間の創り上げた人工物によってケガをしたり、死んでしまうという事実を再認識した。日々絶滅していく生物がいることを重く受け止めて、人間が自然と共存できる方法を探っていかなければならないと考えた。(三部 雄太)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

コウモリはガラス張りのビルが「見えない」
  • Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171104

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)