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Nature Video活用事例

銀河の巨大な集合体と「バリオン」のある場所

Laniakea: Our home supercluster

Superclusters – regions of space that are densely packed with galaxies – are the biggest structures in the Universe. But scientists have struggled to define exactly where one supercluster ends and another begins. Now, a team based in Hawaii has come up with a new technique that maps the Universe according to the flow of galaxies across space. Redrawing the boundaries of the cosmic map, they redefine our home supercluster and name it Laniakea, which means ‘immeasurable heaven’ in Hawaiian.

Read the research paper: http://dx.doi.org/10.1038/nature13674

Read Nature's news story: http://www.nature.com/news/earth-s-ne...

その他の Nature Video

天文学者の予想を大きく超える大きさの、銀河の巨大な集合体が2014年に発見された。直径5億光年を超える領域に、10万個以上の銀河を含んでいると考えられている。どのようにして発見されたのかを紹介しよう。

地球という名の小さな青い惑星は、太陽と呼ばれる恒星の周りを軌道運動している惑星で、太陽は銀河系として知られている渦巻銀河の数十億個ある恒星の一つだ。さて、銀河系は宇宙のどこにあるのだろうか。ハワイ州立大学の Brent Tullyらは、地球のまわりの8,000個以上の銀河のデータを集め、空間におけるそれぞれの銀河の位置と運動をマップにした。その結果、銀河系はこれまで想定されていたよりも巨大な、銀河の集合体の中に埋め込まれていることが明らかになった。

この巨大な銀河の集まり(超銀河団)は、ラニアケア(Laniakea)と名付けられた。銀河系は、このラニアケア超銀河団の端の部分に存在しているらしい。宇宙の構造は、銀河の複雑なネットワークである「コズミック・ウェブ」(宇宙のクモの巣)を形づくっていると考えられている。クモの巣の糸が集まったように見えるところには銀河が密集しており、それ以外のところにはほとんどなにもない「ボイド」と呼ばれる領域だ。

膨大な数の銀河を地図にする

ラニアケア超銀河団を発見する過程で、ハワイ州立大学の Brent Tully はこれまでにない精度で地球の周辺にある銀河の運動を研究した。宇宙全体が急速に膨張していても、宇宙に存在する物質は引力としてはたらく重力の影響を受けている。計算によって宇宙膨張の影響を取り去った上で、地球の方向に向かってくる銀河を青色で、逆に遠ざかっていく銀河を赤色で示した様子が動画に紹介されている。これは、重力によってそれぞれの銀河がどこに向かって移動しているのか、という「コズミック・フロー」のマップをつくり上げることを可能にした。

この運動を利用して、Tully らは、宇宙における物質分布をマップにする新しい方法を見出した。動画に示された銀河の運動の様子を確認すると、ほとんどの銀河が密度の大きな部分に引き寄せられていることに気がつくだろう。この向かっている点は「グレート・アトラクター」と呼ばれている。私たちの宇宙を支配している空間の一部である、このグレート・アトラクターへと銀河系は移動しているのだ。

超銀河団と超銀河団の境目

動画で示される小さな円は、一つの銀河を表している。グレート・アトラクターと私たちの銀河系の間には、相対的に密度が小さな、青色で示されたボイドが存在する。そして銀河系の隣りには、多数の銀河からなる大規模で密度の大きなおとめ座銀河団がある。

そのおとめ座銀河団や、私たちの銀河系、さらに100個ほどの銀河団を含んださらに大きな超銀河団(おとめ座超銀河団)は、直径数億光年の大きさであると考えていた。しかし、この研究から、おとめ座超銀河団はまさに氷山の一角であることを知ることができる。おとめ座超銀河団はラニアケア超銀河団のごく一部に過ぎず、ラニアケア超銀河団はその100倍以上の半径と質量をもつ。研究チームはどのようにして、この宇宙のマップで超銀河団の境界線を引いたのだろうか?

動画では、ラニアケア超銀河団を黒、隣りにある「ペルセウス座・うお座超銀河団」を赤で示している。研究者たちは、銀河の流れが分水嶺のように分かれている地点を境界として定義した。これが、超銀河団の明瞭な境界である。ラニアケアは、ハワイ語で「広大な天国」を意味しており、私たちが存在する銀河の巨大な集合にまさに適切な名前なのだ。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

宇宙にはまだまだ見つかっていない構造物があるのかもしれない。私たちに馴染みのある「ふつうの物質」(物理学で「バリオン」と呼ばれる)は、宇宙を構成する物質やエネルギーのうち、わずか5パーセントに過ぎない。残りの95パーセントは、いまだに正体のわからない暗黒物質と暗黒エネルギーだ。しかも、全宇宙のバリオンのうち最大で40パーセントは、どこにあるのかわかっていない。

宇宙全体の構造では、銀河がつながってまるで「クモの巣」のようになっていることが観測からわかっている。そのクモの巣をつくっているのは、銀河と銀河の間に存在するガス状の構造物(「フィラメント」と呼ばれる)だ。このフィラメントをX線で観測した結果、バリオンがフィラメント中に隠れている可能性が示された。

この結果をより確かなものにするためには、100万秒を超える、長時間におよぶ観測が必要である。現在計画中の「ホット・ユニバース・バリオン・サーベイヤー」(中国)や「高エネルギー天体物理学先進望遠鏡」(欧州宇宙機関)が実現されれば、行方不明のバリオンの隠れ場所が明らかになることだろう。

学生からのコメント

この動画を見て、巨大な宇宙の中で地球が誕生し、人類が存在していることは奇跡だと思った。生命体が宇宙の中で地球にだけ存在しているとは思えないので、いろいろな宇宙科学の発見の中でも、個人的には地球外生命体の発見のニュースを聞くことが楽しみだ。(中村 優輝)

膨大なスケールから地球を見て、私たちが生きる地球のちっぽけさを感じ、同時に宇宙の広大さを感じることができた。マップ化することで、巨大な構造がよりわかりやすく理解できた。グレート・アトラクターとブラックホールには類似性があるように感じたが、どうなのだろうか。(涌井 陸)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

「宇宙のクモの巣」で見つかった行方不明の物質
  • Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180936

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)