エピジェネティクス：シロイヌナズナのEBSはバイバレントなヒストン読み取り因子であり、花芽形成の開始を制御する

細胞がさまざまな意味を持つ合図を認識し、それをクロマチンの修飾や転写の状態に反映させることは、多くの生物学的過程において極めて重要である。植物では、栄養成長期から生殖成長期への移行（花成）が適切な時期に行われることが、有性生殖を成功させるために不可欠である。EARLY BOLTING IN SHORT DAY（EBS）は、シロイヌナズナ（Arabidopsis thaliana）において早期花成を防ぐ負の転写調節因子である。我々は、EBSがBAH（bromo-adjacent homology）読み取りモジュールと植物ホメオドメイン（PHD）読み取りモジュールを持っており、それぞれH3K27me3、H3K4me3に結合することを見いだした。また、クロマチン免疫沈降（ChIP）により、EBS結合遺伝子の一部は、H3K27me3、H3K4me3、およびポリコーム抑制複合体2（PRC2）と共沈するという結果を得た。注目すべきことに、EBSは自動抑制モードを備えており、それによってH3K27me3、H3K4me3との結合優先度が切り替わるようになっていた。この結合バランスは非常に重要であり、EBSとH3K27me3との結合またはEBSとH3K4me3との結合のいずれかを破壊すると早期花成が惹起された。本論文により、2種類の拮抗的に働くヒストンマーカーを認識するバイバレントなクロマチン読み取り因子が同定された。また我々は、本論文の結果に基づき、クロマチンの活性化状態と抑制状態を調整する新たな機構を提案する。