がんの遺伝学と精密予防、ならびに実施への提言
Nature Genetics 50, 9 doi: 10.1038/s41588-018-0202-0
一般的ながんの「第一世代」感受性遺伝子(BRCA1、BRCA2、MLH1、MSH2)が連鎖解析により同定されてから15年以上になる。これらの遺伝子は対立遺伝子頻度・浸透度プロファイルが顕著なため、確認バイアスの有無にかかわらず、その臨床的有用性が失われることはおそらくないだろう。続いて、連鎖解析では発見できなかった「第二世代」感受性遺伝子(PALB2、ATM、CHEK2、BRIP1、RAD51C、RAD51D)が、候補遺伝子の変異スクリーニングにより同定された。これらは対立遺伝子頻度・浸透度プロファイルが弱いため、がんとの関連性やリスクの大きさ、バリアントの病因性の評価が難しく、そのことが臨床応用の妨げとなっている。だが、一般的ながんに関して、生殖細胞系列におけるエキソーム塩基配列決定の初期の試みは、予想に反するものだった。「次世代」遺伝子の発見が多数もたらされることはなく、がんゲノムが持つ高度な多遺伝子性が示されたのである。つまり、遺伝子の発見に何らかの寄与をするためには、はるかに大規模な実験が必要であることが分かったのである。対立遺伝子頻度・浸透度プロファイルの「遺伝経済学」から明らかになったのは、第一世代遺伝子に変異を持つ個人を特定することに資源を集中するのが、がん対策に最も有効であるということである。がん対策計画の最前線にあるのはスクリーニング、予防、早期発見である。我々は、第一世代遺伝子に変異を持つ個人を特定するための国家的な全住民検診プログラムを早急に始動させることを提言したい。精密予防プログラムの完全な遂行のためには、長期的な大規模変異研究によって縦断的な臨床データおよび時系列的な生体試料を取得する必要がある。