結節性硬化症は、遺伝子座9q34のTSC1あるいは16q13.3のTSC2のヘテロ接合性変異によって起こる単一遺伝子疾患であり、しばしば精神遅滞、自閉症、およびてんかんをともなう。結節性硬化症患者のおよそ50%は正常の知能指数をもつが、こういう患者でさえ長期記憶や作業記憶の障害など特定の神経心理学的問題をもつことが一般的である。今回我々は、Tsc2遺伝子のヘテロ接合性不活性化変異をもつTsc2+/-マウスは、学習と記憶の障害を示すことを報告する。Tsc2+/-マウスの認知障害は、神経学的異常や発作がなくてもみられることから、他の疾患機序の関与が示唆される。我々は、海馬のmTOR(mammalian target of rapamycin)シグナル伝達の過活性化が、海馬のCA1領域の異常な長期増強につながり、さらに海馬依存性の学習の障害がもたらされることを示す。これらの障害には、2つの空間学習課題および文脈的識別の障害が含まれていた。注目すべきことに、mTOR阻害薬ラパマイシンの成体マウスへの短期投与により、シナプス可塑性だけでなく、この結節性硬化症動物モデルでの行動異常も救済される。以上の結果は、結節性硬化症にともなういくつかの認知障害の生物学的基盤を明らかにするものであり、mTORアンタゴニストによる治療がこの疾患のマウスモデルで認知障害を軽減することを示している。