Notch受容体シグナル伝達は、平滑筋細胞の増殖制御やその未分化状態維持に関与すると考えられている。肺動脈性肺高血圧症は、過度の血管抵抗と小肺動脈での平滑筋細胞の増殖を特徴とし、肺血管抵抗の上昇や右室不全、さらに死をもたらす。今回我々は、ヒトの肺高血圧症は小肺動脈平滑筋細胞でのNOTCH3の過剰発現を特徴とし、ヒトとげっ歯類での疾患の重症度は肺のNOTCH3タンパク質の発現量と相関することを示す。さらに、Notch3のホモ接合性欠失マウスでは、低酸素刺激を与えても肺高血圧症を発症しない。マウスの肺高血圧は、血管平滑筋細胞でNotch3の活性化を阻害するγセクレターゼ阻害薬のDAPT(N-[N-(3,5-difluorophenacetyl)-L-alanyl]-S-phenylglycine-t-butyl ester)の投与により治療可能である。また、HES-5(Hairy and enhancer of Split-5)タンパク質を介するNOTCH3受容体シグナル伝達と、平滑筋細胞の増殖と未分化平滑筋細胞表現型への移行とをつなぐ機序を明らかにする。以上の結果は、NOTCH3-HES-5シグナル伝達経路が、肺動脈性肺高血圧症の発症に極めて重要であり、治療介入の標的経路となることを示している。