一次繊毛はほとんどの哺乳動物細胞上に存在し、発生過程でヘッジホッグ(Hh)シグナルの伝達にかかわるとされているが、ヒト腫瘍に繊毛がどのくらいの割合で存在するかは不明であり、がんにおける繊毛の役割は検討されていない。本論文では、ヒト基底細胞がん(BCC)は繊毛をもつ場合が多いことを示し、2種類のHh経路依存性マウス腫瘍モデルで、繊毛形成に必要とされる遺伝子であるKif3a(kinesin family member 3Aをコードする)、あるいはIft88(intraflagellar transport protein 88をコードする)の条件的欠失実験を行って、繊毛のBCCにおける役割を調べた。繊毛の欠如は、活性化型Smoothenedにより誘発されるBCC様腫瘍を強力に抑制した。一方、Hhシグナル伝達の転写エフェクターであるGli2の活性化により誘導される腫瘍形成は、繊毛の除去により促進された。これらの一見したところ相反する影響は、繊毛がHhシグナル伝達経路の活性化と抑制の両方を仲介する2重の役割をもつことと一致する。以上の知見は、繊毛が独特なシグナル伝達細胞小器官として機能し、発がん開始事象の性質に依存して腫瘍形成を仲介、あるいは抑制しうることを明らかにしている。