インターロイキン6(IL-6)-JAK(Janus kinase)シグナル伝達は、がんにおける持続的なSTAT3(signal transducer and activator of transcription-3)活性化に極めて重要とみられている。だが、IL-6が誘発するSTAT3活性化は通常は一過性である。今回我々は、腫瘍細胞および腫瘍微小環境中での持続的なSTAT3活性化を引き起こす重要な機構を突き止めた。STAT3陽性腫瘍では、リゾリン脂質のスフィンゴシン1リン酸(S1P)に対するGタンパク質共役受容体であるスフィンゴシン1リン酸受容体1(S1PR1)の発現が上昇していることがわかった。STAT3はS1pr1遺伝子の転写因子である。S1pr1発現の増加は相互的にSTAT3を活性化し、Il6遺伝子発現を上昇させ、その結果STAT3に依存する形で腫瘍増殖と転移を促進する。腫瘍細胞あるいは免疫細胞でのS1pr1のサイレンシングは、腫瘍のSTAT3活性、腫瘍の増殖と転移を阻害する。IL-6による一過的なSTAT3活性化とは対照的に、S1P-S1PR1が誘発するSTAT3活性化は持続的である。S1PR1によるSTAT3活性化の一因は、JAK2チロシンキナーゼ活性の上昇である。STAT3が誘発するS1PR1発現とS1P-S1PR1経路によるSTAT3活性の相互的な調節は、がん細胞と腫瘍微小環境における持続的なSTAT3活性化と悪性化に対する主要な正のフィードバック回路となっていることを示す。