Letter 薬物嗜癖:アルデヒド脱水素酵素2の阻害は、ドーパミン合成のコカイン使用依存的阻害物質であるTHPの生成によりコカイン探索行動を抑制する 2010年9月10日 Nature Medicine 16, 9 doi: 10.1038/nm.2200 薬物嗜癖の神経生物学的性質については広範な知識が得られているにもかかわらず、コカイン嗜癖に対して有効な治療法はない。本論文では、アルデヒド脱水素酵素2(ALDH-2)の選択的阻害剤であるALDH2iは、ラットでのコカイン自己投与を抑制し、コカイン嗜癖再発様行動ラットモデルでのコカインあるいは刺激が誘導する再発を防止することを示す。我々はまた、ALDH-2阻害がコカイン探索行動を低減させる分子機構も明らかにした。in vitroおよびin vivoで、ALDH-2の阻害によりテトラヒドロパパベロリン(THP)生成が増加し、コカイン刺激性のドーパミンの産生と放出が減少する。コカインは細胞外ドーパミン濃度を上昇させ、これにより腹側被蓋野(VTA)の一次ニューロンでドーパミンD2自己受容体が活性化され、cAMP依存性プロテインキナーゼA(PKA)およびプロテインキナーゼC(PKC)が刺激される。PKAおよびPKCは、チロシン水酸化酵素をリン酸化して活性化し、正のフィードバックループでドーパミン合成をさらに増加させる。モノアミンオキシダーゼはドーパミンをALDH-2の基質である3, 4-ジヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(DOPAL)に変換する。ALDH-2の阻害により、VTAニューロンでDOPALがドーパミンとの縮合反応を介してTHPを形成するようになる。THPは、選択的にリン酸化された(活性化型の)チロシン水酸化酵素を阻害し、負のフィードバックシグナル伝達を介してドーパミン産生を低下させる。コカインや渇望に関連して起こるドーパミン放出増加の低減は、コカイン探索行動の抑制にALDH2iが有効であることの説明となると考えられる。ALDH-2の選択的阻害は、ヒトのコカイン嗜癖治療やその再発防止に有効となる可能性がある。 Full text PDF 目次へ戻る