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がん:乳がん細胞は転移ニッチ構成要素としてテネイシンCを産生して肺に生着する

Nature Medicine 17, 7 doi: 10.1038/nm.2379

本論文では、肺に浸潤する乳がん細胞がテネイシンC(TNC)を発現することによって、細胞自身の転移開始能を維持することを報告する。TNCは幹細胞ニッチの細胞外マトリックスタンパク質だが、その発現は肺転移の侵襲性に関連していることがわかった。がん細胞由来のTNCは肺の微小転移巣の生存と増殖を促進する。TNCは、幹細胞シグナル伝達の構成要素であるmusashi homolog 1遺伝子(MSI1)やleucine-rich repeat-containing G protein-coupled receptor 5遺伝子(LGR5)の発現を高める。MSI1はNOTCHシグナル伝達の正の調節因子で、LGR5はWNT経路の標的遺伝子である。幹細胞シグナル伝達のTNCによる調節は、幹細胞の表現型や多能性を増強する転写因子、すなわちnanog homeobox遺伝子(NANOG)、POU class 5 homeobox 1遺伝子(POU5F1、別名OCT4)、SRY-box 2遺伝子(SOX2)の発現には影響せずに起こる。TNCは、MSI1に依存するNOTCHシグナル伝達を、signal transducer and activator of transcription 5(STAT5)による阻害から防御し、またWNTの標的遺伝子であるLGR5の発現を選択的に高める。がん細胞由来のTNCは、腫瘍間質が代わってTNCの供給源となるまで、転移巣の増殖に不可欠である。これらの知見は、TNCを転移開始した乳がん細胞の適応性を維持する経路に結びつけ、また、TNCが転移ニッチの細胞外マトリックス構成要素である関連性をはっきりと示している。

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