骨形成タンパク質(BMP)やトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)などのTGF-βスーパーファミリーに属する分子は、炎症、アポトーシスや細胞移行の重要な調節因子である。今回我々は、BMP受容体であるアクチビン様キナーゼ3(Alk3)が、傷害後の病的状態の腎臓で早期に上昇することを示す。また、尿細管上皮でのAlk3の欠損は、TGF-β1−Smad3(Smad family member 3)シグナル伝達の亢進、上皮の損傷と繊維形成を引き起こすこともわかり、腎臓ではAlk3が介在するシグナル伝達は保護的役割を持つことが 示唆された。また、BMP-Alk3−BMPR2(BMP receptor, type 2)リガンド-受容体複合体の構造・機能解析と、それに基づく有機化合物合成を行って、Alk3受容体を介して作用するBMPシグナル伝達の小型ペプチドアゴニストのライブラリーを構築した。そのようなペプチドアゴニストの1つであるTHR-123は、急性および慢性腎障害の5つのマウスモデルで、炎症、アポトーシス、上皮−間葉移行プログラムを抑制し、確立している繊維形成を解消した。尿細管上皮選択的にAlk3を欠損させたマウスはTHR-123治療に応答しなかったので、THR-123はAlk3シグナル伝達選択的に作用している。THR-123とアンジオテンシン変換酵素阻害薬のカプトリルを組み合わせて用いると、腎繊維形成の制御に相加的な治療効果が見られた。我々の研究は、BMPシグナル伝達のアゴニストが新規治療薬となり、臨床で再生、修復および確立した繊維形成の解消を誘導する可能性を持つことを明らかにしている。