空腹時の肝臓での糖新生の誘導は適切なエネルギー恒常性を維持する上で非常に重要である。2型糖尿病では、この誘導の調節が障害されており、空腹時に高血糖をきたす原因となっている。空腹時に適応するための、ホルモンならびに栄養素による代謝調節は、 主に転写コアクチベーターであるペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1α(PGC-1α)によって、他のさまざまな転写調節因子と協調して行われている。CITED2(CBP- and p300-interacting transactivator with glutamic acid-and aspartic acid-rich COOH-terminal domain 2)は、これらの因子の多くと相互作用するが、このタンパク質が肝臓の糖新生の調節に果たす役割は、これまで明らかにされていなかった。今回我々は、肝臓におけるPGC-1αを介した糖新生の調節にCITED2が必要であることを見いだした。CITED2は、マウス肝臓では絶食によって増加し、培養肝細胞中ではグルカゴン-cAMP-プロテインキナーゼA(PKA)シグナル伝達によって増加した。また、2型糖尿病マウスの肝臓におけるCITED2の量は非糖尿病マウスに比べて増加していた。CITED2は、アセチルトランスフェラーゼGCN5(general control of amino acid synthesis 5-like 2)とPGC-1αとの相互作用を阻害することにより、PGC-1αのアセチル化を阻害した。こうしたPGC-1αのアセチル化の低下により、その転写コアクチベーション活性は亢進し、糖新生系の遺伝子の発現が増加した。CITED2とGCN5の間の相互作用は、ホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)-胸腺腫ウイルスがん原遺伝子(Akt)シグナル伝達経路に依存的にインスリンによって阻害される。今回の結果から、CITED2が糖新生の転写調節に関連したPGC-1αの活性調節において、グルカゴンおよびインスリンシグナル伝達のトランスデューサーとして機能すること、この機能はGCN5依存的なPGC-1αアセチル化の調節を介することが明確になった。さらに我々は、糖尿病マウスの肝臓におけるCITED2の機能喪失が糖新生を抑制することを示し、CITED2が高血糖に対する治療標的となることも明らかにした。