数十年間の科学的観察とその後の数年にわたる基礎研究、そして現在では臨床研究によって、腫瘍細胞の代謝能力が、長く探し求められていた「がんのアキレスの踵」になりうるという考え方が裏付けられている。しかし、腫瘍の代謝系の実際の構成を決めるのは何なのか、また代謝シグナル伝達に関与しているよく知られた因子や経路が、腫瘍抑制因子やがん遺伝子として働いているのかどうかといったことについては、まだ多くの疑問が残っている。BEDSIDE TO BENCHでK Birsoyたちは、抗糖尿病薬メトホルミンの投与を受け、膵臓がんを持つ糖尿病患者の後ろ向き研究の結果から、メトホルミンに抗がん作用がある可能性がどうやって示されたのかを論じている。この薬が生物体レベルで働くのか、それとも腫瘍細胞のエネルギー供給装置を直接標的とするのかを見分けるには、さらなる研究が必要だろう。BENCH TO BEDSIDEではR M YoungとM C Simonが、腫瘍環境でよく見られる低酸素濃度への細胞の応答に関与する重要な代謝因子の複雑な機能について詳しく検討している。この低酸素誘導因子(HIF)は、がんの型によって、腫瘍促進性だったり、抑制性だったりする。このために、HIF阻害物質の治療への使用は注意しながら進めなくてはいけない。HIFの代謝調節作用と腫瘍プログレッションの間の関係をさらにはっきりさせることができれば、新しい診断法や治療法への道が開けるかもしれない。