神経疾患:RAC1のエピジェネティックな調節はストレス障害およびうつ病でシナプスのリモデリングを引き起こす
Nature Medicine 19, 3 doi: 10.1038/nm.3090
うつ病は脳の報酬回路で構造的および機能的なシナプス可塑性を誘導するが、このような変化を促進する機構や、行動結果との関連は解明されていない。Rho GTPアーゼ関連遺伝子はシナプス構造の調節因子であることが知られているが、これらの遺伝子の側坐核(NAc)での転写プロファイリングから、慢性的な社会的敗北ストレスの後に、Rac1(RAS-related C3 botulinum toxin substrate 1)発現が持続的に低下することがわかった。これは、Rac1の近位プロモーター周辺の抑制的なクロマチン状態と関連していた。MS-275を使ってクラス1ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)を阻害すると、社会的敗北ストレス後のRac1転写の低下と、社会的回避などのうつ病関連行動の両方が改善された。うつ病患者のNAcでは、RAC1プロモーター周辺に同様の抑制的クロマチン状態がみられ、これがRAC1転写低下と一致することが見いだされた。マウスでは、NAcでのウイルスを使ったRac1発現低下、あるいはRac1活性の阻害によって、社会的敗北によって誘発される社会的回避および無快感症が増加する。慢性的な社会的敗北ストレスは、隆起型の興奮性突起棘形成を誘導し、これはシナプスのコフィリン(Rac1の下流にあるアクチン切断タンパク質)の再分配が関与するRac1依存的機構を介して起こる。慢性的な社会的敗北ストレス後に、マウスのNAcで構成的に活性なRac1を過剰発現させると、うつ病関連行動が消失し、隆起型突起棘が刈り込まれる。まとめると我々のデータは、NAcにおけるRAC1のエピジェネティックな調節が、うつ病の疾患機序であることを示しており、また、げっ歯類ではストレス関連行動の調節にRac1が機能的な役割を持つことを明らかにしている。