腎疾患:多発性嚢胞腎におけるグルコース代謝異常によって見つかった新規治療戦略
Nature Medicine 19, 4 doi: 10.1038/nm.3092
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は、両側腎の嚢胞形成を特徴とする、よくみられる遺伝性疾患である。最近、ADPKDでシグナル伝達カスケードの脱調節が見つかったことで、複数の臨床試験が開始されたが、認可された治療法はまだない。我々はメタボローム解析を用いて、この疾患の病原性経路の1つで、安全な治療標的とすることができるものを見つけだした。PKDのマウスモデル、およびADPKD患者の腎臓では、PKD1に変異が生じた結果として解糖が亢進していることがわかった。グルコースを欠乏させると、PKD1変異細胞では、グルコース非欠乏細胞に比べて増殖が遅くなりアポトーシス頻度が上昇した。2種類のPKDマウスモデルで、解糖を阻害するために2-デオキシグルコース(2DG)を投与すると、投与しないマウスに比べて腎臓の重量、体積、嚢胞インデックスおよび増殖速度が低下したことは注目すべきである。代謝のこのような変化はERK(extracellular signal-related kinase)経路に依存しており、この経路はLKB1(liver kinase B1)-AMPK(AMP-activated protein kinase)軸を阻害する一方、mTORC1(mTOR complex 1)-解糖カスケードを活性化するという二重の働きをしている。代謝速度が亢進するとAMPKの阻害が増強される。AMPKを強制的に活性化すると、これは負のフィードバックループとして作用し、正常なERK活性が回復する。まとめると、これらの結果はグルコース代謝の障害がADPKDの病理生物学的性質に根本的に関わっていることを示唆している。我々の知見は、既存薬を単独あるいは組み合わせて使用することによる新規な治療戦略についての強力な理論的根拠となる。