酸化ストレスはずっと以前から疾患発症や加齢の加速と関係づけられており、生物医学の分野ではこうした病態の予防や回復に抗酸化物質が使えるのではないかと考えられてきた。だが最近、抗酸化物質は実際には効果がないらしいことを示す臨床的な証拠が増えてきたため、酸化に関わるいくつかの分子、とりわけ活性酸素種(ROS)が有害ではないことを実証するさらなる研究が求められている。BEDSIDE TO BENCHでは、M Ristowがヒトでの抗酸化物質の補給についての最近の研究で、健康寿命の改善が見られなかったことに注目している。また、この問題に関連して、ストレス条件下ではROSが寿命に有益な役割を果たすことを示す別の証拠も得られているが、この作用が細胞内でどのように仲介され調節されているのかは十分に解明されていない。BENCH TO BEDSIDEでは川岸裕幸とT Finkelが、生きている動物でのROSの影響に関わる生物学的性質およびシグナル伝達について詳細に調べ、ROSはその量によって寿命および疾患に果たす役割が異なる可能性があることを示している。生体で抗酸化物質が効果を発揮しないことも、量の違いによって説明できるかもしれない。著者たちは、ROSではなく、細胞損傷を取り除くのに関わる経路や分子の方を標的とすることで、寿命をもっと効果的に延長したり、酸化や加齢によって起こる疾患を防いだりすることが可能になるのではないかと提案している。