がん抑制因子BAP1はASXL1と結合してポリコーム脱ユビキチン化酵素複合体を形成し、これがヒストンH2Aのリシン119(H2AK119Ub)からモノユビキチンを取り除く。しかし、BAP1とASXL1の変異は別々の種類のがんで起こっていて、このことはこれらの因子がエピジェネティック状態の調節と悪性形質転換にそれぞれ別個の役割を持つことと一致する。本研究では、マウスでBap1が失われるとトリメチル化されたヒストンH3リシン27(H3K27me3)が増加し、ポリコーム抑制複合体2(PRC2)のサブユニットであるEzh2(enhancer of zeste 2)の発現が上昇し、PRC2の標的の抑制が増強されることを示す。この結果は、Asxl1の喪失でH3K27me3レベルの低下が見られることと対照的である。Bap1とEzh2をin vivoで条件的に欠失させると、Bap1だけが喪失した場合に誘導される骨髄系前駆細胞の増加が見られなくなった。また、BAP1の喪失は、H4K20のモノメチル化(H4K20me1)の顕著な減少につながる。EZH2の転写調節にH4K20me1が果たす役割と合致して、H4K20me1メチルトランスフェラーゼであるSETD8を発現させると、EZH2発現が低下し、BAP1変異細胞の増殖が見られなくなる。さらに、BAP1を欠失する中皮腫細胞は、EZH2の薬理学的阻害に感受性を示す。このことはBAP1変異悪性腫瘍に対する新たな治療法を示唆している。