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筋疾患: TGF-βの過剰はマウスで骨転移に関連する筋力低下を引き起こす
Nature Medicine 21, 11 doi: 10.1038/nm.3961
がんに関連して起こる筋力低下は解明が進んでおらず、有効な治療法は存在しない。今回我々は、ヒト溶骨性骨転移の7種類のマウスモデル(複数種の乳がんと肺がん、それに前立腺がんと多発性骨髄腫での転移に相当する)で筋機能障害が認められ、がんに関連する筋力低下に腫瘍–骨微小環境の関与が示唆されることを見いだした。転移が誘導した骨破壊の結果として骨表面から放出されるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)が、NADPHオキシダーゼ4(Nox4)の発現を増やして、その結果RyR1(ryanodine receptor and Ca2+ release channel)などの骨格筋タンパク質の酸化が増加することが分かった。酸化されたRyR1はCa2+を漏出するようになり、その結果適切な筋収縮に必要な細胞内シグナル伝達が減弱する。RyR1からの漏出、TGF-βシグナル伝達、骨からのTGF-β放出、あるいはNox4活性を阻害すると、MDA-MB-231骨転移が起こっているマウスで筋機能が改善された。乳がんあるいは肺がんに関連する骨転移が起こっている患者でも、骨格筋RyR1の酸化が見られた。これは正常な筋では見られない現象である。TGF-β活性上昇に関連する非悪性代謝性骨疾患であるカムラチ・エンゲルマン病のマウスモデルでも同様に、骨格筋の筋力低下、RyR1へのNox4結合の増加およびRyR1の酸化が見られた。従って、骨からの病的なTGF-β放出は、Ca2+が誘導する筋力産生を低下させることで筋力低下の一因となっている。